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女の子はポンと手を打ち胸元から猫耳を取り出すと頭に装着した。それからぐいっと猫耳頭を俺の顔前に近づけて、上目遣いで言った。
「はい、猫耳でーす。これでレンタル契約成立!ですね」
あ、これははっきり断らないと駄目なやつだ。
「いやいや、そういう意味じゃないよ。レンタルはしないよ」
これ以上関わると厄介だ。俺はスタスタと横断歩道を渡り始めた。しかし女の子は俺の前に立ちふさがりさっきまでの笑顔を消して、今度はプンスカしながら言った。
「あれれ?おかしな事を言いますね。猫耳じゃないから嫌だ、つまり逆さまに言うと猫耳ならばオッケーだってことですよね?」
「そういうことじゃないよ」
女の子は今度は胸元から目薬を取り出して口を半開きにしながら目に差した。うん、わかるよ、俺も目薬を差すとき口が半開きだよ。
「よいしょっと」
女の子は横断歩道の上に寝転んでバタバタしながら泣き真似をした。
「おじさんの嘘つきー、えーんえーん」
周りの視線が冷たい。いや、そんなことよりも大変だ!歩行者信号が点滅し始めた。
「おい、このままじゃ危ない。歩道に戻るぞ」
俺は女の子の手を引っ張って起こそうとした。
「やだやだやだー、レンタル契約してくれないとやだー」
「わかった、契約するからさっさと起きろっ」
女の子はニコッとして胸元からICレコーダーを取り出した。
「今の会話、しっかり録音しましたよ」
けたたましく鳴るクラクション。交通の妨げになっている。歩道に戻らなきゃ。
その時、クラクションを鳴らして止まっている車の間をすり抜けてきたバイクが、俺たちに向かって突っ込んできた。あ、ダメだ。俺は女の子を庇うように抱き締めた。
「あらやだ、おじさん積極的」
なに暢気なことを言ってやがるんだこいつは。
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