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読みきかせの会
「やはり、叔母様と叔父様に報告しておくわ」
「お嬢様……」
「カーラ、何をしている?何度呼ばせれば気がすむんだっ!」
カーラが何か言いかけたタイミングで、居間の方から叔父様のだみ声が飛んで来た。
「はーい!少しお待ちください」
カーラは、大声で返事をしてからわたしに舌を出して見せた。
「もちろん、お嬢様も舞踏会に出席なさいますよね?」
「行きたくないわ」
「ダメですよ。お嬢様が主役ではないですか。ちゃんと出席なさって、婚約破棄の申し出を堂々と受け入れるのです」
驚いてしまった。
カーラもまた、わたしが主役だから出席しろと勧めてくる。
「それで、お嬢様。次のお休みはいつですか?」
彼女は、急に話題をかえた。
「明後日よ」
「では、ティーカネン侯爵家に遊びに参りましょう。ソフィアお嬢様のドレスの試着をしてもらいたいからと、侯爵家のメイドを通じてお誘いを受けているんです」
子どものころ、ソフィアとわたしは仲が良かった。そのこともあり、ティーカネン家の使用人たちとクースコスキ家の使用人たちどうし、仲がよかったのである。うちは、みんな辞めてしまったけど、カーラはいまだにティーカネン家のメイドたちと懇意にしている。
「お嬢様、準備をしていますのでお風呂に入って下さいな。わたしは、二人の相手をしてまいります」
わたしが舞踏会の出席についてどう答えようかとかんがえている間に、彼女はさっさと厨房を出て行ってしまった。
翌日は、お昼から月に一度の読みきかせの会があった。
それは、毎月一度行なっている子どもたち向けの催し物である。
いまのところ、街の子どもたちしか参加してくれていない。わたしとしては、上流階級の子どもたちと街の子どもたちの触れ合いの場所になれれば、なんて思ってもいる。
上流階級と一般の人たちとでは、住む世界が違う。
多くの人たちがそう思っている。そして、そのように口にする。それは、上流階級の人たちだけの思考ではない。一般の人たちもまた、そのようにかんがえている。
世界は同じである。だけど、環境は違う。
環境が違うと、どうしてもほかの環境が見えてこない。見ようともしない。自分の環境が正義で、それ以外は悪であるとさえかんがえる人もいる。
何がよくて何が悪いなんてものは、もちろんない。
一つに凝り固まらず、違う環境にいる違うかんがえや思いに触れる場があれば……。
大人の思考や思い込みをやわらげるのは難しくても、子どもたちなら柔軟である。だからこそ、それぞれの環境の子どもたちの触れ合える場所があればいい。
その場が図書館の催し物であればいいとかんがえているのだけど、なかなか難しい。
今月の読みきかせは、動植物特集にした。
絵本と子ども向けの小説を読んできかせた。
とくに最後の一冊は、卵を産む鳥と食用の鳥の物語りである。
子どもたちのほとんどが、卵を産む鳥と食用の鳥の別れのシーンに泣いてしまった。
当然、食用の鳥は人間に食べられる為に殺されるのである。
わたしたちは、多くの動植物の犠牲によって生かされている。だから、どんな動植物でもそのささやかな命に感謝しながら食さなければならない。同時に、どんな動植物でも人間と同じく生きているのである。どれほど小さくても、その生命は人間と同じで尊いもの。だから、けっして軽んじてはいけない。
わたしは司祭でも聖女でもないし、教師でもない。教える、というのはおこがましいけれど、子どもたちが成長する中で本を通じて学んだり感じてもらえたりしてくれれば、これほどうれしいことはない。
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