式神オ悩ミ相談室

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 職場は街中にある商業施設の一階と二階に広がるギャラリースペースで、企画展示の間だけ夜間警備を任されていた。仕事内容は、建物外の見回りや窓や扉の施錠チェック、モニターの監視と展示場の巡回を繰り返すというものだ。  牛山を連れては来たものの、特に何か手伝って貰うようなことはない。警備会社からは誰もここの警備をしたがらないということでお声がかかったが、蓋を開けてみればどこにでもいるような浮遊霊と、どこにでもいるような小物異形がリラックスしているだけの空間だった。  何故誰も警備をしたがらなかったのかについては、すぐに理解出来た。このギャラリーの二階に展示された大きな絵、西洋女性の肖像画が曰く付きだったのだ。その絵の横には、この絵の所有者だった者たちが皆、不慮の事故で亡くなっているという説明書きまで付いている。そのせいなのか、この絵は不買品だった。  最初にここの警備を担当した者が実際に不慮の事故に遭い、左足を複雑骨折するという大怪我を負ったのが、その曰くに拍車をかけていた。しかもその警備員は、前日の夜間警備で「あの肖像画の女と目が合った気がする」と、奇妙なことまで言い残したのだ。  それだけならまだしも、この警備会社には前歴がある。約十年前、警備中に警備員が一人亡くなっているのだ。そしてその警備員の霊は他の警備員によく目撃され、忌一自身もその先輩警備員の霊に出くわし、警備の仕方まで教わっている。  普段は社員も「十年も前の過去のことだ」と気にせず仕事をしているのだろうが、こういうことがある度にほじくり返されてしまうので、死亡者を出した前歴と怪我人が出てしまうという実績が合わさると、誰もやりたがらなくなるのだろう。  しかし実際のところ、忌一はこの曰く付きの絵から毛ほども怪しい気配を感じなかった。おそらく不慮の事故とは全く無関係なのだ。桜爺ともう一体の式神である龍蜷(りゅうけん)にも訊ねたが、答えは全く同じだった。  なのでとても安全で退屈な仕事に就くことが出来たわけだが、付き合わせることになった牛山には少し申し訳ない気もしている。眠気覚ましに話し相手になって貰ったり、しりとりや山の手線ゲームで暇つぶしをするのに協力して貰うのだった。
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