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牛山のいる生活にも慣れてきた頃、彼の自己評価が異様に低いことに気がついた。例えば警備中に、明水の式神について話をしていた時のこと……
「牛山は十二の式神の中でも随一の怪力じゃったぞ」
「そうなんだ!? 牛山さん、凄いじゃん!」
「否。怪力なら木虎や猪瀬、馬場や龍見もいる」
と、一番優れていることは誇りにせず、他の式神でも代わりは十分に務まると思っているようだ。
またある時は式神の変化の話になり、
「式神って人型以外にも変化出来るの!?」
「主の助けがいるがな。忌一は陰陽道のいろはも知らんから、わしも龍蜷も変化は出来んがの」
「……」
「主の式神である我らは十二支の名を与えられた故、その動物に変化出来る」
そう言って牛山は、羽鳥は伝書鳩のように伝令役を務めたり、馬場は非常時に馬に変化して、人を乗せて運ぶことも出来るのだと尊敬するように語った。
「じゃあ、じーさんや牛山さんも鼠や牛に変化するってこと?」
「無論じゃ。小さな隙間へ入るような偵察はお手のもんじゃったぞ」
「じゃあ牛山さんだって、非常時には人を乗せて運べるんじゃない?」
「出来るは出来るが……自分は速さがない故、馬場に命ずるだろう」
牛山はそう言って寂しそうに肩を落とす。
自分に出来ることは他の式神にも出来るのだと、自分だけの価値がないので自信が無いようだ。でも裏を返せば、いろんなことが出来るのが牛山なのではないだろうか。
(こういうの何て言うんだっけ? 器用貧乏?)
なろうと思ってなれるものではない。それは凄いことのように思えるのに、彼を説得する言葉を持っていないのが何とも歯がゆかった。
* * *
牛山が松原家を訪れてから一週間が経とうとしていた。彼が来たことで、父子の会話は増えた気がした。常に牛山を介してだが。
父は忌一より牛山に心を開いていて、当然のように彼のお茶を淹れたりしている。自分としても夜間警備中に牛山と過ごせるのは、何とも言えない安心感があった。
(じーさんが居れば寂しくはないけど、この存在感は牛山さんならではなんだろうなぁ……)
岩のように大きなガタイを持ち、それでいて余計なことを喋らない静かさを持っている。それも牛山の良さだと思うのだが。
この日の職場はいつもより少し賑やかな気がした。普通の人には見えないだろうが、いくつかの小物異形が跳ね回っている。
(深夜の運動会か?)
それでもここにいる異形は、悪さをするようなタイプではないとわかっていたので、いつも通りに無視して牛山と一緒に巡回を始めた。
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