式神オ悩ミ相談室

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 一階のギャラリースペースを、懐中電灯で照らしながら順路通りに歩く。時々展示物の存在や、ガラス窓の鍵がちゃんとかかっているかどうかも確認しつつ、二階へと向かう。  階段を上る途中で、牛山と桜爺と三人で山の手線ゲームを始めた。『古今東西、明水のところにいる式神の名前』だ。牛山はよく他の式神の話をしてくれたので、すっかり名前を覚えていた。  式神たちは性格も個性豊かで、大雑把な奴もいればムードメーカーもいたり、クールな奴もいれば大人しい者もいる。そんな式神に囲まれる中、牛山も相当な生真面目で際立っているとは思うのだが。  そんなことを考えているうちに、例の曰く付き肖像画の前へ辿り着いていた。懐中電灯を当て、異常がないかどうか確認しようとしたその時、凄い速さで何かが目の前を横切った。 「忌一殿!!」  咄嗟に目を瞑り、再び目を開けた時には暗闇に包まれて何も見えなかった。辺りを見回して、下に転がった懐中電灯を手に取ると、そこで初めて目の前の大きな絵画が自分目掛けて倒れており、それを咄嗟に牛山が身体を張って守ってくれたことに気づいた。 「牛山さん!?」 「問題無い」  そう言って彼はゆっくりとその絵画を持ち上げ、壁に掛け直す。どうやら先程の黒い影は、このギャラリースペースで飛び跳ねていた小物異形のようだった。彼らには全く悪気が無く、この絵画が倒れてきたのも偶然らしい。  牛山は咄嗟の判断で顔を五芒星の布で覆い、実体化していた。そうすれば、落ちてきた絵画から忌一を守ることが出来る。 「ありがとう、牛山さん」 「感謝は無用だ」 「でもこれってさ……多分俺の式神には無理だったよ」 「?」  肩の上で桜爺が、うんうんと頷く。  忌一は現在二体の式神を使役しているが、陰陽師の術の類は一切使えない。だから桜爺と龍蜷は、実体化することが出来ないのだ。 「慰めは有難いが、主の式神なら誰でも出来ることだ」  彼の持つのと同じ五芒星の布で顔を覆えば、確かに他の式神でも可能だろう。 「でも今俺の目の前にいるのは、牛山さんじゃないか」 「?」  牛山が己の不甲斐なさを悩み、生真面目に桜爺から教えを請おうと思わなければ、今ここに彼はいないはずだ。 「それに牛山さんが父さんと話してくれたことも、感謝してる。俺じゃ父さんを安心させてあげられないから……」 「忌一殿」  改めて「ありがとう」と牛山の前に片手を差し出す。彼は何かを沈思していたが、五芒星の布の紐を頭の後ろでしっかり結び直すと、忌一の手にゆっくりと応じるのだった。
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