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「牛山よ。本当の目的は、忌一の様子見じゃな?」
牛山に追いついた桜爺は、いつの間にか彼の肩口で胡坐をかいていた。
「さすがは子島殿、気づいておられたか」
「明水にはどう伝えるつもりじゃ?」
「……」
「せんないことを申したな。主の命は絶対じゃ。忘れよ」
何を思ったのか、牛山はそこで立ち止まり、「子島殿。貴方の封印は……」と口走る。
「何じゃ?」
絵画が落ちてきた時、牛山は咄嗟に忌一の肩を掴んでいた。あの時は咄嗟のことで、手加減が出来なかった可能性がある。しかしその時忌一は、恐ろしいほどの力で瞬間的にそれを振り払っていた。
そして一瞬だが、忌一の眼は暗闇に怪しく光る、真っ赤な眼光を宿らせていたのだ。
だが、その後の忌一の言葉にとても勇気づけられたのも確かだった。
(今は龍蜷殿が封印を担当している。それにあれは、異形のかけられる言葉ではない)
そのまま忌一と生活をすれば、不味いことになるような気がした。だから牛山は、すぐに松原家を出ることにしたのだ。
「子島殿が忌一殿を選んだ理由、よくわかりました。またいつか」
そう言って牛山は深々と頭を下げると、再びゆっくりと明水の元へと歩き出すのだった。
<完>
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