1.自分の新しい面を認める

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1.自分の新しい面を認める

 私はスランプ中のプロのイラストレーターである。  私の売りは、鮮やかな色彩なのだが、その色がうまく出せないのだ。  スランプに陥ったら、あがきまくるしかないと誰かが言っていたが、私はもうこれ以上あがくことができない程にあがき尽くした。  涙も枯れて、鼻水すら出ない状態だ。  そんな時のことだった。某コンペに応募したイラストが、採用されたという連絡が来たのである。  実は、そのイラストは、半ば自暴自棄の状態で、めちゃくちゃな色使いで描いたものだった。  つまり、美しい色使いを売りにしているイラストレーターが、自分の特色を捨てて描いた作品だ。まさかそれが採用されるなんて、思ってもみなかった。  私はため息をつく。  コンペを取り仕切った担当者さんが、電話で感心したほうに言っていた。 「他の作品を圧倒するようなインパクトでした!」  そう? 「特に色使いが素晴らしいです!」  あの色がですか? 「あなたにしかできない色の使い方だと思います!」  私にしか?マジで言ってる?  この仕事は、私の履歴に残るだろう。めまいがする。あの色使いが、イラストレーターとしての私の顔のひとつになるなんて。 「イラストの使用料は、来月振り込まれますから!」  ………。  プロであるからには、これで飯を食って行かなければいけないのだ。  結局、あれも私の一部ということか。  あのイラストを描いたのは、他でもない私なのだから。
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