レンタル遊戯

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古岡(ふるおか)くんと連絡がつかないんだけどね。伊吹(いぶき)くん、何か心当たりはないかい?」 大学の寮を訪ねてきた友人の夏目新太(なつめあらた)は、開口一番そういった。困っているのかいないのか、非常に判別し辛い(たたず)まいで。 「いや、知らん。どうかしたのか?」 「一昨日返してもらうはずの遊戯盤(ゆうぎばん)が返ってこなくて」 遊戯盤とはボードゲームのことだ。夏目は、夏目の祖父が経営していた『レンタル遊戯(ゆうぎ)』という店を、祖父の逝去により引き継いだばかりだった。ボードゲームをひろめるという目的で作られた店は、なんやかんや息が長い。 「電話にも出ない、授業にも出ていない、他の友人に聞けばここ数日顔を見ていない、というんだ」 のほほんとした口調はまるで他人事のように聞こえる。でも、俺を訪ねてくるくらいだから困っているには違いないのだ。 夏目はそういうやつだ。 黙っていると、案の定、飄々(ひょうひょう)と切り出された。 「今から家に行ってみようと思うんだけど、よかったら、ついてきてくれない? きみは、ぼくより古岡くんと仲良しでしょう」 「ん、良いよ。ちょっと心配だし」 夏目がにっこり笑った。柔和な糸目の笑顔は、無邪気にも、何かたくらんでいるようにも見える。 「ありがとう。では行こう。早くしないと延滞料金が膨れ上がる」 * 古岡のアパートは大学の最寄り駅からほど近い場所にあった。外観は小ぎれいで、学生専用の五階建て。 側には大きな木が生えていて、二階の外に面した廊下に影を落としている。 玄関前に佇む夏目の肌にも、まだらな木漏れ日がひろがっていた。濡羽色の髪も相まって色の白さが際立っている。 勿論、俺のシャツやパンツや金髪にも同じように陽が絡まっている。特に何かが目立つことはない。 チャイムを鳴らしても音沙汰はなかった。スマホを鳴らしてみる。扉の向こうから微かに音が聞こえた。 おっとりと首を捻った夏目が、ドアノブに手をかけた。 あろうことか、扉はあっさりとひらいた。 「おや、開いている」 「おや、じゃねーよ。古岡、入るぞー」 俺たちはずかずかと家の中に踏み込んだ。 短い廊下を進んだ先、キッチンと住居スペースを区切る引き戸を開ける。 部屋中央の床には巨大な穴が空いていた。
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