レンタル遊戯

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夏目がびっくりしたような顔になった。まじまじと俺を見る。多分、ほんのわずかの間だったと思うけど、妙に長く感じた。 ふいっと夏目が視線を逸らした。 虚空に向かって宣言する。 「ぼくは古岡くんに用があるのではなく、古岡くんに貸したものに用があるんだ」 「夏目……?」 まさか、という思いがかけ巡る。 俺の声は届かなかったのかもしれない。古岡はクズだけど、友達だ。どうすればいいだろう。 周囲の視線を一身に集めた夏目が続ける。 「きみの大事なコレクションを無理に取り返そうとして悪かった。古岡くんのことは諦めよう。でも、古岡くんに貸したものはきみが責任をもって返してくれるかい?」 『いいだろう。なにを貸したんだ』 いきなり、周囲の空間にひびが入った。ばき、ばき、と音を立てて洞窟自体が崩壊していく。崩壊した世界の欠片が、夏目の持つルーレットに向かって次々吸い込まれていく。 夏目が古岡に貸したのは遊戯盤だ。つまり、ボスは遊戯盤を夏目に返すと約束したに等しい。それは、すなわち。 夏目が振り返った。 いたずらっぽく笑っている。 「恭二郎に教えてもらったんだ。こういうボスの倒し方もあるって」 にゃあ、と頭の上で猫が鳴いた。 お別れだ。 俺は拳を握りしめた。首元から去った優しい温もりが、楽しそうに、ルーレットの中へと駆けていく。 夏目が檻に向かって歩いた。 檻が内側から夏目に向かってはじけ飛ぶのと、洞窟の声が聞こえたのは同時だった。 『貴様、まさか、恭二郎の──!?』 「貸したものは返してもらわないとね」 ばらばらに砕けた檻の中で、目を見開く古岡に、夏目が手を差し伸べた。
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