レンタル遊戯

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猫がふしゃーと頭上で警戒している。 霧はすぐに晴れた。 目の前の道を塞ぐ形で出現したのは、天井まで積み上げられた檻だった。中には鎧だの剣だの様々なものが残っている。その檻の一つに、見慣れた顔の人物が閉じ込められていた。 「古岡!」 俺の声に古岡が顔を上げる。げっそりしていた表情が、みるみるうちに生気を取り戻していく。 「い、伊吹! ……夏目っ」 突然、積み上げられた全ての檻がぐにゃんと曲がった。ぐにゃぐにゃとうねる檻は一つの生き物のように形を変えていく。ひび割れた檻の隙間に、ちらちらと赤い何かが貼り巡らされた。まるで血液が循環しているみたいに。 『にゃあああん!』 猫がビームを放った。光は檻に向かって真っすぐ進み── 「っうわあぁあぁあ!?」 「古岡ぁー!」 ごめん本当にごめん悪気はなかったえっどうしよう、と高速で愚にもつかぬ事を考えるうちに、檻に当たったビームが檻の表面のみを打ち砕いた。 幸運だ。まごうことなき幸運。流石は猫。猫やばい。もう、だいたいのことは猫でどうにかなる。 今のうちに、と檻に向かおうとした直前だった。再度、檻がぐにゃんと曲がった。切れ切れになった鉄骨が空いた穴を塞いでいく。俺たちは勿論、古岡も動けない。 だめだ。猫が通じないなんて、どうすればいいんだ。 檻全体から風が唸るような声が響いてきた。 『人の子か』 古岡が震えあがるような声で懇願しだす。 「助けてくれ! 悪かった、俺が悪かった!」 「古岡くん、教えて欲しいことがある。このゲーム、どうやったら中に入れたんだい? 発動条件が知りたいんだ」 「な……夏目、お前、流石に今じゃないぞ」 「し、知らねーよ! 気付いたらこうなってた! 何でも言う事きくから助けてくれ!」 ぎゃいぎゃいと口々にわめく俺たちの会話の隙間を縫って、謎の声が響いた。 頭蓋骨に染み入るような響きに反して、内容はめちゃくちゃ俗物的だった。 『檻の男よ、本当に現実に戻っていいのか? 現実に戻ればお前は彼女にふられ、借金を背負い、留年して家族に迷惑をかけているちんけでちっぽけな甲斐性無しだ。ここにいたほうがずっといい。そう思わないか』 「お前のコレクションに加えられるくらいなら、現実で頑張るわ!」 古岡のもっともな反論に、ぼくも応援しよう、と夏目が小さく呟き頷いた。裏目に出そうで怖い。
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