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碧は大翔の双子の妹だ。何故か言葉をしゃべれない。耳は問題なく聞こえているし、口やのどの構造にも問題はないので、心因性のものではないかと医者は言っているが、生まれてから一度も言葉を発していない。
これには医者も首をひねるばかりだった。
碧はしゃべらないだけでなく、こころの不調がすぐに身体にも出る。繊細な子だと大人は言うが、大翔に言わせると、嫌なことがあると、すぐに倒れたり、気分が悪くなったりする迷惑な身体だ。
そしていつも迷惑を被るのは、双子である大翔だ。「繊細」という言葉に守られている碧は、いつも大事にされている。それに腹が立つのに、学校で碧が倒れれば、いつも大翔が呼ばれ、呼ばれた大翔も腹を立てながら、駆け付けてしまう。更に腹が立つことに、そのたびに大翔は碧の心配をしてしまう。
大翔が支える碧の身体は、熱くもなく、冷たすぎもしなかった。そのことに大翔はホッとする。
大翔は黙って、碧と保健室へ歩いた。
大翔がしゃべらないのは、碧から返答がないからではない。「どうしたの?」と訊いても、碧は「別に」といったふうに首を横に振るだけだからだ。
そして保健室について、先生に碧が倒れた理由を訊かれても、「さぁ」と首をすくめるしかないからだ。
双子でいつも助けているからと、碧のことをなんでも分かっていると思わないで欲しい。
大翔にだって分からないことだらけだ。
碧は自分の言いたいことは、筆談で伝えてくるが、気持ちや理由を語りたがらない。いつも「別に」と首を横に振るだけだ。
家族をはじめ、周囲の大人も、それを碧が「繊細」だからと許している。決して踏み込まない。
それを俺に訊かれても分からない。
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