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三浦の母親は、教育ママだったらしい。高学歴の至上主義者で離婚して三浦の親権を握ると三浦に体罰を含んだ教育を施した。
三浦が何に対しても楽しいと笑う一端がわかった気がした。三浦は笑う以外の感情がない、もしくは死滅している。
体罰を施す母親のご機嫌を伺うために、いつも笑っている自分を作り上げた。笑っていたら母親が怒らない。怒られても自分の日頃の行いが悪いせい。母親は悪くない。
そういって自分を犠牲にして、母親を善人に仕立て上げ、自分を下卑た存在だと思い込む。そうでなければ壊れてしまったのかもしれない。いや、壊れてしまっても責められ続けていたのかもしれない。
断片的に話だけを聞いても、私は同情しようという気持ちはなかった。三浦は不幸な男だった。はい。終わり。それだけ。
三浦を寝室に引っ張り込んで、膝枕しながら聞き出した情報を頭の中に思い浮かべる。それ以上を私に何ができるだろうか? 傷口に塩を塗り込むことはできても、癒すことなど私には無理だ。
「ある日、母さんが死んだんだ。病死だった」
「それは無念だったね」
「でも、俺は泣けなかったんだ。肉親が死んだのに、どうして泣けないんだろうって母さんは」
「死ねばいいと思ってたんだろさ。それは普通だよ。体罰を受けてたら死ねばいいと思って、死んだら喜んでた。悲しいなんてちっとも思ってなくてもいいのさ」
「そんなの許されるわけがないけど、そうだな。そうかもしれない」
親不孝だなと三浦が笑う。身体の傷も、心の傷も少しずつだけれど癒えているのだろうと、私は勝手に思う。
私は善人ではない。悪人だ。犯罪に片足を突っ込んで抜け出せなっている人間だ。三浦を救えるなんて夢物語なんて信じちゃいない。
三浦が眠ってしまうまで待って、荷物をまとめて家を出た。夜だった。ほんの少しだけ寒かった。さようなら、三浦。
「ああ、私は三浦を…………」
そこから先は口にせず、私は夜を歩く。ゆっくりと歩く。
「やぁ、お兄さん、今夜は暇かな?」
いつものようにへらへらと笑いながら、私は男を誘うのだ。そういうふうにしか私は生きられない。
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