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毛闘・開催決定
「てことは俺キョウと5年間一緒じゃん!やばっ!」
隣の席のケンジがゲラゲラ笑っている。
新学期初日。
無事に小学5年生を迎えることができた。
教室内は、新しいクラスへの戸惑いと興奮が入り混じった空気が流れている。
この5年1組には、
なかなか粒揃いなメンバーが集まった。
幼馴染のケンジ。
運動神経抜群のシンノスケ。
男前のカツヤ。
巨漢のババ。
秀才のカシモっちゃん。
ロン毛のモリっち。
そして僕、キョウ。
他にもたくさんいるが、基本的にはこのメンバーで行動することが多い。あまり別れずに済んで、内心は結構ホッとしている。
いつものメンバーの1人の、
"マイペースのササ坊"と別れてしまったのは残念だが、ササ坊ならなんとかなるだろう。
「はーい、静かに!みんな席につけ〜」
吹上先生が教室に入ってくる。
声が高い。僕のクラス担任になったことはないが、4年生の頃も僕らの代を請け負っていたので何となく知っている。
「はい、5年1組の担任になりました、吹上です」
「知ってまーす!」
シンノスケが手を挙げてはしゃいでいる。
「お前はまったく...まあ去年も俺の担任だったやつらは引き続きよろしくってことで、みなさん楽しくやっていきましょう!」
明るいクラスになりそうだ。
「まあ初日ってことで、色々連絡事項とかあるからパッと早めにやっときます」
そう言いながら吹上先生は、手際よくプリント類を配っていく。
新学期初日はプリントがかさばる。
隣のケンジは、ずっと使っているであろうパンパンの透明のクリアファイルを出し、苦い顔をしていた。
たくさん配られていくプリント類の中で、
一際光を放っているものがある。
それは、
"年間予定表"だ。
1年間のあらゆる行事が記されている。
運動会に、遠足に、夏休みに冬休み、合唱コンクールに、社会科見学。
このプリント配りの中で、唯一と言っていいほど盛り上がる。
しかし、今年はいつもと違う部分がある。
「林間学校じゃん!うわ!ついにきた!」
ケンジが大きな声で騒いだ事でクラス中にその事実が広がっていった。
「めっちゃ楽しみ〜!ねえ、絶対一緒の班なろうね!」
「林間学校ってなにすんの?林行くの?」
「カレー作るらしいよ!でっかいやつ」
様々な会話が飛び交っている。僕もしっかり5年生らしく、興奮している。楽しみだ。
隣のケンジと持って行くお菓子の話をしていると、ふとある会話が耳にスッと入ってきた。
「泊まりなら、みんなで風呂入るのかな?」
風呂...
5年生を迎えるとなってから、
芽生え始めていた感情がこみ上げてくる。
自然と顔に力が入る。
まわりの男子たちの顔を確認する。
ほとんどが僕と同じ、
もしくはそれ以上の顔つきをしていた。
吹上先生が口を開く。
「そうだ。みんなで大浴場入るんだよ」
この瞬間、
"毛闘"の開催が決定した。
"毛闘"。
つまり、陰毛の量の対決だ。
5年生あたりになってくると、ある程度大人の体についての知識がついてくる。つけようとしなくても生活していれば、勝手についてくるのだ。
そこで男子たちは気づくのだ、
陰毛というモノの存在に。
そして、
もう生え出してくる頃合いだということに。
陰毛についての話は、
陰茎と同じように軽く扱うことができない。
「おまえのチンコ、ちっちゃ!」
このような会話はできないのだ。
なぜか。
それは陰毛の量の負けが、
"男"としての負けを意味するからだ。
陰毛について学んだその瞬間から
なぜだか、男の心の中には
陰毛の量に対しての恥じらいが生まれる。
そしてその恥じらいは公にできず、
心の中で沸々と湧き上がっていく。
そのためこういう林間学校のような、強制的に裸になる場面がないと扱えなかったのだ。
しかし今回、時がきてしまった。
心に芽生えた
"男として勝ちたい"
という感情に、
もう目を背けることはできない。
この毛闘は平等だ。
普段どんなにカッコ悪くても、どんなに鈍臭くても、どんなに情けなくても、
陰毛さえ多ければ
"男"としての価値がとんでもなく跳ね上がる。
僕は必ずこの毛闘に勝つ。
勝って、男になる。
ズボンの上から陰毛を握りしめる。
隣のケンジからも、
陰毛の
握り込まれた音が聞こえたような気がした。
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