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毛闘当日
朝七時。起床。
最後のプロテインバーを口に入れる。
この味。この美味しすぎない味。
リビングへ向かう。
お母さんはせっせと朝食を作っている。
化粧台へ向かい、アイブロウペンシルを回収。
その足でそのままトイレへ。
慣れた手つきで細毛を書いていく。
初めの頃はヘビのような細毛だった。
しかし今では、ヘビの面影は一切ない。
ただそこに、偽りのない偽毛が足されていく。
リュックのミニポケットの最終確認をする。
リアル偽毛ストックケース。
モリっちのロン毛がパンパンに詰まっている。
瞬間接着剤。
試した中で一番陰毛との相性がいいものを選んだ。
そして念のため、アイブロウペンシルとサインペンも持っておく。
〈現在の自毛状態〉
〜本数45(太毛:12 細毛:33{真:22 偽:11})〜
〈大浴場での予想自毛状態〉
〜本数53(太毛:20 細毛:33)〜
※追加予定太毛:8本
53本。堂々たる本数だ。
もう大浴場までは特にすることがない。
自毛に優しい行動を心がけるくらいだ。
*
楽しい。
林間学校が楽しい。
毛闘のことを忘れて思いっきり楽しんでいた。
バス移動。班ごとの森の探索。カレー作り。
さすが5年生の大イベント。
今までの、社会科見学やそこらのイベントとはわけが違う。格が違う。
バスに戻り、宿泊所へと向かう。
「あっち〜、風呂入りてえ」
男前のカツヤが手であおぎながら、
巨漢のババと話している。
「ね!入りたい入りたい!あ...」
ババが気づいた。
その瞬間まわりの男子全員も息を呑んだ。
今日は5年生の大イベント・林間学校。
違う。
そうじゃない。
今日は5年生の大イベント・"毛闘"だ。
宿泊所に到着。
男子全員の泊まる大部屋へと移動する。
この後の流れとしては、
係ごとに仕事の準備、夕食、風呂、キャンプファイヤー、就寝、となっている。
それぞれ荷物を置いて、係ごとに集合場所へ移動する。僕の係は布団係。秀才のカシモっちゃんと一緒だ。部屋に常備されている枕と布団の数を確認し、足りなかった場合は取りに行く。
「布団が15、枕が12、だから枕3つだね」
「はや!さすがカシモっちゃん」
「面倒な仕事だね。まったくこっちは気が気じゃないってのに」
カシモっちゃんもしっかりと毛闘に対して緊張しているようだ。今日はメガネを触る回数が多い。僕もつられて緊張してきてしまった。
ここらで、用件を切り出す。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる!」
大浴場へ向かう。今のうちにトイレの確認をしておく。マップはすでに頭の中に入っている。
到着。
これが毛闘の舞台、大浴場。
緊張しつつ、トイレを確認する。あまり掃除は行き届いていない。だが、それは関係ない。接着するのに十分なスペースだ。よし。いける。
*
美味しい。
みんなと食べる夕食がおいしい。
また毛闘のことを忘れて林間学校を満喫していた。満腹だ。そろそろ夕食も終わる。
「1組で欲しいやついるか〜?」
隣のクラス担任、城島先生が呼びかけている。
どうやら隣のクラスで杏仁豆腐が余ったらしい。ちなみに僕は杏仁豆腐に目がない。
「はい!!」「はい!!」
シンノスケと僕の声が重なった。
「く〜!ジャンケンだな!キョウ!」
「負けないぞ!」
ポイ。勝った。
隣のクラスの2つ目のテーブルの杏仁豆腐を取りに行く。
「え?」
テーブルの杏仁豆腐の近くの席に
サインペンが置いてある。驚いた。
今は空席。誰だ。
この6人掛けのテーブルは出席番号順の並びになっている。
「この席は...」
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