主人公に向いてない

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『ありがとう。普通にしてくれて。』 お風呂からあがり、本を読む前に手に取った携帯の中のメッセージアプリは、そんな内容を受信していた。送信者はのっきーだ。 開いてみると、今日の私の対応に関する感謝が述べられている。自分のことを知ったうえで『普通』に接してくれたことに感謝しているらしい。 無難な返信をし、携帯を閉じる。 本を開く前に、ベッドにごろりと寝転んだ。 のっきーは、感謝してくれているらしい。 でも、何に感謝しているのか、よくわからない。 『普通』にしたらしい。 『普通』とは何なのか。状況によって変化するその内容は、様々に変化する雲のようにとらえどころがない。 だけど、一応今回の『普通』を、把握しておかないと。のっきーは、そうされると嬉しいらしいのだから。友人の嬉しいことは、きちんと知っておくべきだ。 今日は、のっきーと話をした。朝と、休み時間の何回か。 それだけだ。 今回の『普通』は、それらしい。要は話し掛けられたら話をすれば良い。 なんで感謝しているのか、よくわからない。友人に話し掛けられて、話をするのは『当たり前』のことだと把握していたのに。 それとも、身体と心の性別が違うと、それは『当たり前』ではなくなるのか。 ごろりと寝返りを打ち、顔の横にあった携帯に触れる。そして、そっとため息を吐いた。 どうやら、勉強が足りないようだ。 世の中には、まだまだわからないことが多い。 いつになったら、それはなくなってくれるのだろうか。
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