主人公に向いてない

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『実は、私、本当は女の子なんだ。』 そんな言葉が目に入ったのは、お風呂上がり。歯を磨き、髪も乾かし、後は本日読み残している本の何ページかを読んで寝るだけ。その前に一応携帯に何かしらの連絡が来ていないかを確認しようと、それを手に取り、画面をつけた瞬間のことだった。 メッセージアプリが受け取った内容の通知には、スタンプ目当てで友だちになった沢山の公式アカウントからのお知らせに交じり、確かにそんな文言が目に止まる。そしてそれは、入学した高校の同じクラスで、最近連絡先を交換した人間からのメッセージだった。 クラスメイトからのメッセージは、スルーするものではない。 私はメッセージアプリを開き、件のメッセージの詳細を確認する。 そこには、そのクラスメイトが身体は男性だが、心は女性であり、それ故にこの世界が息苦しいということ。友人になった私には、それを知った上で仲良くしてほしいということ。いきなりこんな内容を告白してしまい申し訳ないということ。 そんな内容が長々と綴られていた。 一度読み終え、もう一度最初から読み直す。 携帯をベッドの上に置き、その横に座る。 男性か女性か、というのは仲良くなる上で告白すべき内容であるらしい。 こういう告白を受けた経験が今までにないため、対応の仕方がよくわからない。それとも、身体と心の性別が違っているから、わざわざ告白が必要なのだろうか。恥ずかしながら、自分の身体の性別が女性だとは認識しているけれど、心に性別があることを考えたことがない私には、やはり対応が難しい。 だけど、『世界が息苦しい』ということは、この認識はクラスメイトにとって、きっと、とても心が重くなることなのだろう。 そういう『重い』内容を告白された時は、『言ってくれてありがとう』と、昔読んだ何冊かの友情物語に出てきた包容力のある登場人物は言っていた。 その記憶を辿りながら、私はクラスメイトへの返信を作成することができた。 作成した文面を確認し、送信する。携帯の画面を消す。返信が来た時に対応できるよう、傍らに携帯を置く。 そして枕元の本を手に取り、いつものように読み始めた。
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