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「うー、うー…」
「…これって…俺を呼んでるのかな」
掛け布団の上から馬乗りになった真咲に揺り起こされた。
目覚まし時計よりよっぽど効果がある。
こんな朝、初めてだ。
「真咲、おはよ。いーくーや!言ってごらん」
「うー、うー、あー」
「言い難いかな…。父ちゃんって呼ぶ?くっくっく…」
涼真がパパなら俺は父ちゃんでいい。
冗談で真咲に話しかけ、一人笑う。
気持ち悪い大人だ。
「とーと、とと」
だがそんな俺の世迷言にきゃー、と言って真咲は笑う。
「そうか、とと、って呼んでくれるのか。ありがとな」
男同志の秘密の会話。
すぐ近くでまだ眠っている涼真には内緒の会話。
でも真咲の楽しそうな声が涼真を起こしたようだ。
「…あ、もう起きて…わ、十時?」
話し声で目覚めたのか、寝すぎた…と呟いて涼真が慌てて身体を起こす。
寝起きの、全てに気を許したこの無防備な感じ。
寝巻きがはだけて、少し肌色が多めなのもいい。
昨日は真咲を挟んで川の字になって眠った。
二人が眠りに落ちた後、俺はこっそり涼真の寝顔を眺め指先で唇に触れた。
これぐらいいいだろ?
ささやかなご褒美。
「今日涼真はのんびり過ごして俺の実力を見てくれよ。さ、真咲、着替えよう」
「あー、とと!」
「とと?魚?」
「いーの、こっちの事!」
「郁弥…」
涼真を布団に残して真咲と二人、手を繋いで立ち上がった。
「真咲、テーブルに皿並べて。それからフォークも」
「あい!」
プラスチックの皿とフォークを渡せば遊びの延長で楽しそうにテーブルに並べてくれる。
朝食を用意する間、真咲に簡単な配膳を手伝わせるのだ。
そうすれば涼真だって助かる、はず。
「上手に出来たな!次、これ」
褒めて欲しくて足にまとわりつく真咲にサラダや目玉焼きを渡した。
「いい匂い。真咲、お手伝い出来るの?」
驚いた様子でスマホを構え、シャッターを切る涼真。
なんだ、ちゃんと親バカ出来てんじゃん。
俺が少しだけ手伝えばきっと上手くいく。
「涼真は座って。真咲、ありがとな」
三人で囲む食卓は久しぶりの家族団欒のように温かだった。
一日かけて、掃除、洗濯、家の片付けを三人でして夜になる頃には概ねスッキリと室内は整った。
驚いたのは真咲が思いのほか戦力になった事と、涼真が想定内の範囲でポンコツだった事。
涼真に家事を教えるより、真咲に教えていった方が二度手間にならず効率がいいのかも。
遊びの延長で手伝ってくれる真咲と乾いた洗濯物を片付けながら俺は今後の方針を考えていた。
「うわ!美味そう!」
「まんま!とと!あーと」
慣れない家事で二人が疲れて眠っている間に俺は夕飯を用意した。
鶏肉の照り焼き、里芋とイカの煮物、キャベツの味噌汁、大根の浅漬けにサラダ。
下心アリアリで用意した食事でも二人の反応はいい。
あっという間に食事を終え、たらふく食べた真咲は再び夢の住人になった。
子供の寝顔を愛おしそうに見つめる涼真。
その涼真に思いを寄せる俺。
「涼真にお願いがあるんだ。聞いてくれる?」
やっと大人の話が出来る時間だ。
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