想い出が褪せる頃

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とある休日、通い慣れた涼真の部屋。 穏やかに話したいのに何故か喧嘩腰な俺達…。 「光熱費と食費は出す」 「光熱費はお願いするとしても、食費は折半!」 涼真の家で夕飯の支度の途中、同居に関する意見が食い違って声を荒立ててしまった。 「家賃払って貰ったら、そこは譲れないって言ってる!」 いつになく語尾の強い涼真に驚いたのか真咲が文字通り飛んできた。 そして俺たちの顔を順番に見上げ、目から大粒の涙を零す。 「うわ〜ん…ぱぁぱ…とと〜…」 「真咲、怒ってないよ。郁弥がガンコなんだよ」 「子供に変な事言うなよ。涼真が人の言う事聞かないから…」 俺は途中で言葉に詰まった。 こんな大人のケンカ、見せちゃ駄目だ。 「真咲、ごめんな。俺、真咲と真咲のパパと同じ家に住むの嬉しくてさ」 屈んで視線を合わせると言ってる言葉は分からなくても意味は通じたようだ。 涙は止まり口をへの字にしてややお怒りのご様子。 「とと…め。ぱぁぱ…め!」 おっと…これは叱られたのか? 涼真と二人、可愛らしくて威力絶大な喧嘩の仲裁に思わず顔を見合わせて笑った。 「面倒だから月末に引越して来いよ」 「はぁ?そんな急に出来るわけないだろ」 「するんだよ」 夜、すっかりと馴染んだ川の字で俺は涼真にそう言った。 二人の間で すよすよと真咲が眠っている。 「家賃だってバカにならないし、とにかく早く一緒に住みたい!」 涼真に笑われる前提で言ったのだが…涼真はそっぽを向いてしまった。 「郁弥…オマエどんな顔して言ってんの?それじゃ同棲するカップルみたい…」 俺はそう言ってるお前の顔が見てみたい、な〜んてその時思った。 「きゃーッ!ぱぁぱ〜」 猫のぬいぐるみを振り回してはしゃぐ真咲。 家の中がダンボール箱だらけでまだ二歳にもならない真咲にとってはちょっとしたアトラクションに見えるのかも。 「危ないから!こっちにおいで…っうわあ!」 「よっと!」 真咲に気を取られて壁にぶつかる涼真。 大丈夫、俺が壁から跳ね返った涼真をキャッチしたから。 涼真と食費を折半にするかどうかで揉めてから約二週間で(俺)念願の引越しにこぎ着けた。 大人と子供一人づつの荷物は想像したよりも少なかった。 部屋にあった荷物は多く見えたが収納スペースガラガラだったしな。 「郁弥、真咲が気になって…集中できない…」 大人の男が二人いても小さな子供がいると作業はなかなか捗らない…。 でも大丈夫。 奥の手がある! 俺はドヤ顔で涼真に言った。 「もうすぐ助っ人が来るから」 「え?誰?」 そのタイミングで玄関が開く音がした。 「郁弥〜、涼真〜来たわよ!」 よく通る声の主は優羽。 「あ〜!」 「真咲がお出迎え?嬉しい」 たったと玄関に走って、まさかのお出迎え。 優羽は真咲を抱き上げてダンボール箱と格闘している俺たちの元へとやってきた。 「待ってた、姉ちゃんありがと!」 「ウチの息子が遊び相手になるから。さ、行きましょ」 「優羽さん、ありがとうございます!お宅までご一緒します。真咲、お兄ちゃんと遊ぼうな」 「にー?」 頭を少し傾げて…うう、可愛い…。 「そうだよ。郁弥、ちょっと抜ける」 「おう!」 真咲が優羽の所にいてくれれば俺達は安心して荷物を運べる。 助っ人呼んで正解だった! 「さーて、この辺のダン箱から運ぶか」 三人を見送り、ちょっと小さめの箱を二つ重ねて持ち上げた。 「楽勝〜…うわ…!痛っ!」 足の裏にグニャリとした感覚、そして痛み。 次の瞬間、俺は床をズルっと滑って上に乗せていた箱がすっ飛び床に強制着地した。 「あ〜…中身が…ん?」 ゆるりと貼ってあったガムテープが捲れてフタの隙間から衣服がはみ出ていた。
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