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「あ〜やっちまった〜」
それほど重くなかったし割れた音がしなかったからきっと中身は大丈夫なはず。
「浮かれてるからかな…」
足元には元凶と思しき真咲が振り回していた猫のぬいぐるみが転がっていた。
まさかそんな物が落っこちてるとは思わずに猫の顔を踏んづけて…アホだな…。
痛かったのはプラスチックの目玉とヒゲ。
「荷物のせいで足元見えなかったからか…」
ダンボール箱からはみ出た布地をその隙間から中に戻そうとしたがレースの繊細な生地がガムテープにくっついていた。
「引っ張ったらちぎれるか?…仕方ない。ガムテープ一旦剥がそう」
涼真の物を勝手に開けるのは気が引けるが…男同志だし…と軽い気持ちでテープを剥がす。
「お…ちょっとベトベトするけど、ま、大丈夫。これハンカチ?……ん?」
白いレースがあしらわれたハンカチかと思いきや…下着?
「あぁ、きっと咲百合の…」
…残してあるんだ…
きっと処分出来なかったんだろう。
見てはいけないと思いつつ、そっと持ち上げた。
白と黒とピンクの数枚の下着…その名前は分からない。
それからこれはブラジャー?
記憶にあるものとは作りやエロさが全然違う…。
そして…かなり…かなりエロいパンツ…
「これはいわゆる紐パン…?」
布地を両手で広げてみると…
「うわ!隠れるの?布少な!」
でも下着の下には布ではない重さの物。
好奇心で衣類をどかす。
「これ…何で…涼真が…?」
ゴロゴロと幾つかのモノが入っていた。
小さな子供がいる家庭には不釣り合いな…大人のモノ。
「いや、…何でこんな…まさか涼真…」
誰が使うのか想像するしか出来ないが…いやいや、想像していいのか?
ダメダメ!
誰もいない部屋でブンブンと頭を振った。
「ガムテープ…どこだろ?」
俺は焦りつつ立ち上がった。
元に戻さないと…涼真が戻ってくる前に。
「真咲、いい子にしてたか?」
「ぱぁぱ〜!きゃ〜!」
夕方頃、二人分の荷物の移動を終えてから真咲のお迎えに優羽の家へ。
「いく〜だっこ〜」
「はいはい、なっちゃん」
真咲より一歳と少しお兄ちゃんの夏羽(なつは)が目ざとく俺をみつけ抱っこを所望する。
優羽の溺愛する長男。
おっとりした所は旦那さんにそっくりだが、顔立ちは優羽に似ている。
「まーくんとあしょんだの」
「うん、ありがとう」
正面から首に手を回され、舌っ足らずな物言いで報告してくれる。
「郁弥も涼真もお疲れ様。真咲と夏羽がずっとイチャイチャしてて可愛いかった〜!」
「ご迷惑お掛けしてすみません」
「近所なんだからいつでも歓迎するわよ」
「なっちゃんまーくんとあしょぶー!」
「きゃーあ!なんなん!」
さすが子供。
既に仲良しか!
「姉ちゃんありがと!帰るわ」
ほっとくと涼真と姉ちゃんがずっと喋っていそうで俺が勝手に帰る宣言した。
「今日からここに住むんだよ」
不思議そうな顔をして玄関に立つ真咲。
「俺とパパと真咲と三人で、な」
部屋の中から呼びかけると真咲の目がキラっと光った。
「とと?」
「郁弥も一緒だよ」
涼真が真咲の頭にポンと手を乗せると、それが合図になって大急ぎで靴を脱ぎ部屋に上がってきた。
「とと〜」
勢いよく脚にしがみつきギュッとされる。
「ありがと。今日からよろしくな、真咲」
「あい!」
俺を見上げる真咲の顔は笑顔で満ち溢れていた。
玄関でその様子をじっと見ていた涼真は俺と目が合うとキュッと口元を引き締めた。
「郁弥、今日から真咲共々よろしくお願いします」
そう言って涼真は俺に深々と頭を下げた。
…そんなのいいのに。
俺が望んだ事なんだから。
「俺の方こそ、小さい子と生活した事ないから役に立てないかもしれないけど…でも頑張るよ!」
「あ〜!ぱぁぱ!とと!」
真咲も何だか嬉しそうで、とても賑やかで楽しくなる予感がした。
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