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涼真と同居を始めてから四年経った。
あっという間。
もう、四年。
真咲も赤ちゃんからすっかりと子供になった。
オムツを付けて“ とと〜 ”って脚に絡みついていた頃が懐かしい。
もう大体の事が出来るようになった真咲は率先して家事を手伝ってくれる。
涼真には早々に戦力外通告を出しておいて正解だった。
いや、正確には出していないし出来ることはやってもらってるけど。
真咲は洗濯物も上手に畳めるし、掃除もお手の物。
まだ身体が小さいからコンロを使った調理は無理だが、ホットプレートならホットケーキもお好み焼きも、焼きそばまで作ってくれる。
凄くない?凄いでしょ?
見た目はちょっとアレだけど小さな手で一生懸命作ってくれて…初めて食べた真咲手料理のホットケーキは少ししょっぱい味がした。
ホットケーキミックスを牛乳で溶いて焼くだけなのに…。
歪な形のホットケーキがパサついてて胸に詰まらせながら食べたっけ。
涼真はポロポロ泣いちゃって、もう、食べる所の騒ぎじゃなかった。
“ パパはどうして泣いてるの? “って真咲まで泣いちゃったっけな。
真咲からすれば俺はただの他人なのに、俺は勘違いするほど涼真と真咲との生活に入れ込んでいた。
「お、もう帰るのか。デートか?」
同期の中黒が退勤寸前の俺を後ろから追い抜いた。
「効率的に仕事してるからな。それにスーパー寄って帰んだよ」
「は?スーパー?プレミアムフライデーなのに?」
「明日は運動会だから弁当の仕込みしとくんだ」
「はぁ〜…」
嬉々と話す俺とは対照的に中黒はどよんとした顔でため息を履いた。
「香束…三十路手前の独身男がまるで主婦じゃねぇかよ。いいのかそれで?ちょっと、来いよ」
あ〜きたきた…中黒の説教が。
長くなる前に逃げよう、と思いつつ俺は中黒の後をついて行った。
連れ込まれた先は多目的ルーム。
「いいか?香束。よく聞けよ」
ハイハイ。
「…お前はオカシイ」
正面に座っているコイツは面と向かって俺をディスっている。
間違いない。
「ハアァ?ケンカ売ってんの?」
「あ、間違えた。お前らの関係性は、オカシイ」
「…何でだよ。フツーだろ?友達と同居」
「二十歳そこそこじゃないだろ?収入だってあるし、家事だって出来るし、一人で生活できるだろ、お前」
俺は、な。
でも、涼真は俺がいないとダメなんだ。
真咲だってまだレギュラーサイズのフライパン持てないんだぜ?
「んなの、俺の自由だろが」
斜からジロリと中黒を睨んだ。
「…なんて言われてるか知ってるか?」
「え?…知らない…ってか陰で何か言われてんの?」
影で噂される俺って何言われてんだろ?
正直気になる。
「未亡人にお熱♡って言われてんぞ」
「…マジか…」
あながち間違っては、ない。
「…だからそろそろ東藤から離れろ」
む。
「俺に命令すんの?俺そんなにオカシイ?」
中黒の言葉についムキになって口が動く。
「俺と涼真は幼馴染みで親友なんだ!友達が困ってたら助けるだろ?子供が小さいとやらなきゃならない事がたくさんあって大変なんだ。そんな姿見てたら手伝うのは当然じゃないのかよ!」
立ち上がり一気に捲し立てて…黙っている中黒を睨みつけていた。
「落ち着けって。ほら、座れよ」
中黒は表情を変えず、俺に着席を促す。
でも怒りで立ち上がってしまった俺はもう座らない。
「帰る」
ひと言 言い残して俺は中黒に背を向け、駅までの道をズンズンと大股で歩いた。
くっそ!ムカつく!ムカつく!
誰に迷惑を掛けている訳じゃないのに、俺がどうしようと勝手だろ!
心の中で何度もそう叫び自動改札機に定期券を叩きつけたがホームに電車が到着する頃には少し頭が冷えて明日の事を考えられるようになった。
「スーパー寄って、それから真咲と風呂入ろ」
明日は真咲と涼真の為に弁当を作る約束がある。
とびっきりの弁当作って、二人を驚かせてやろう。
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