想い出が褪せる頃

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天気は快晴。 空はどこまでも澄みきっていて、そこから降り注ぐ日差しは全てを輝かせている。 青空の下でスタートラインに立ち拳を突き出して合図を待つ子供達。 小さな目はどれも真剣にゴールを睨んでいた。 「郁弥、ほら!真咲が走るぞ!真咲~頑張れ~」 パーンというスタートの合図で子供達は一斉に走り出した。 去年は台風のせいで運動会は中止。 だから子供達は二年分気合いが入っているのだが、どちらかと言うと親の方が盛り上がっているように見える。 どの親も我が子の勇姿をビデオカメラに収めようと必死だ。 父兄席から声を張って真咲を応援する涼真。 いや、声だけじゃない。 腕を振り回し、今にも競技場に踏み込んで行きそうな勢いだ。 涼真は応援が忙しいのでウチでは俺がカメラ係。 真咲を応援する涼真の姿も後で見られるようにこっそり撮影していた。 子供達が次々とゴールを決めると観客席からその都度歓声が湧き上がる。 「よし!郁弥、見た?真咲一等賞!」 我が子の勇姿を見てはしゃぐ涼真。 「見た見た!バッチリビデオに録ってある」 「ホント?ありがとな!真咲~よくやった~!」 テンション爆上がりで応援する涼真。 他の親御さん達も我が子、我が孫を応援しているが、涼真のそれもなかなかのモノだ。 ただ声が大き過ぎるせいか、時々周囲の視線が痛い。 こういうの、親バカって言うんだろうな。 バカになれる程子供が大好きで周りの目も気にせず全力で応援してる。 俺はそんな涼真を間近で眺め、心のアルバムに焼き付けた。 「パパ~!見た?」 午前の部が終わり、昼食を取る為に子供達が親元に帰ってきた。 「見た!凄かった!」 「凄い?ととは?」 「見てた!ビデオ録ったから家で見よう」 真咲もいつも以上にテンション高くて、この二人、紛れもなく親子だ。 「お腹すいた!ととのお弁当食べたい!」 「俺も!」 「たくさん食べてくれよ~!」 電気ネズミの黄色い風呂敷包みを解けば大きなタッパーが三つ。 おにぎり、おかず、デザートがそれぞれに詰めてある。 「おにぎりは鮭、タラコ、青菜の三種類。好きなの食えよ」 「シャケどれ?」 「これだろ?ほら。俺はタラコ。郁弥は青菜が好きだったよな?ほら」 「ありがとう」 電気ネズミの大判レジャーシートに男三人がちんまりと座って仲良くおにぎりを齧る。 おにぎりをたべながらおかずの蓋を開けた。 「真咲の好きな物、作ってきたぞ!」 「わ!とと凄~い!唐揚げ食べる!」 「唐揚げ、卵焼き、イカリング、コロッケ…よくこれだけ作ったな~」 嫌な事も忘れ、全力で作ったぜ。 「ふふん、任せろ!」 「ととの唐揚げ美味すぎ!」 真咲は図鑑で見たリスのようにほっぺたを膨らませていた。 「真咲、逃げないからゆっくり食べな」 「午後は親子競技?」 「一等取ってくるぜ。な、真咲!」 「もちろん!とと、見てて!」 楽しくて嬉しい…そんな一日だった。
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