想い出が褪せる頃

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「涼真、布団で寝なよ。体冷える」 「…ん?寝てた?」 居間のソファーに体を預けていた涼真の閉じていた目が薄ら開いた。 寝起きのせいか顔がいつもより白い。 涼真は昼間俺が撮影したビデオの映像を一人で見ていた。 夕飯後、テレビ出力して三人で見たのに。 目の下が赤くなっている涼真は真咲の勇姿を見てきっと泣いてたんだろう。 うたた寝していたのは普段デスクワークしかしない人が運動会であれだけはしゃいだら…疲れるよな、うん。 「真咲はぐっすりなんだろ?俺、風呂ってくるから」 「うん…分かった、郁弥」 涼真の眠そうな声を聞き、風呂から上がったら起こして布団に連れていけばいい、それまではゆっくりさせてやろう…俺はそう思った。 「くぅ~~はぁぁ~~」 声が漏れるほど気持ちいい。 早起きして弁当作って、応援、撮影…さすがに疲れた。 明日は日曜日。 「二人ともいつもより少し遅く起きて来るだろうからゆっくり朝飯用意して、それから… …おっと…危ねぇ…」 少しぬるくなった浴槽に浸かって、俺は意識を手放しかけていた。 「こんな所で溺れたらシャレになんない」 風呂から上がり下だけ履いてさっさと風浴室を出てリビングへ。 そこでさっきとほぼ変わらない様子の涼真を見つけた。 「涼真…は寝てる」 うわぁ、やっぱり。 眠っている涼真の顔を正面からマジマジと見た。 長い睫毛がふさふさして顔に影を作っている。 少し垂れた目元は目を閉じているせいかそれほど気にならずむしろいつもと違う美しさを感じた。 通った鼻筋に薄い唇。 少し伸びた前髪が目に掛かっていた。 無意識に手を伸ばし、指で髪を撫でる。 …涼真…キレイ… 疲れて眠っているせいか顔色は青白く…眠り姫を連想した。 「姫を起こすには…」 …出来心だった。 俺は、涼真に口付けたのだ。 ちゅっ… 長めに触れる唇。 目を開けたまま…キスの瞬間も逃さず間近から涼真を見つめて…見つめ返され…ん…? んんん~? バチッと涼真と目が合って… …ドキン…と胸が大きく打った。 瞬間、サーッと血の気が引いていく…。 「りょ…涼真…起きて…」 「俺…まだ夢見て…郁弥と…ふふ…」 アタフタする間もなく固まる俺にふにゃりと笑い涼真の瞼が重たそうに落ちた。 「…寝た…?寝ぼけてた…?」 再び静かに寝息をたてる涼真。 …と、とりあえずセーフ…? 今度は顔から火が出そうなほど熱くなった。 ヤバい… 出来心とはいえ…涼真にキスしてしまった…。 しかも目が開いたよな…? 気持ち悪いって思われたかな? でも寝ぼけてたっぽいし…覚えてない可能性だってある…よな…? 夢見てたって言ってたけど…一体どんな夢見て笑ったんだか… 運動会の疲労があるはずなのに…その夜俺はなかなか眠れなかった。
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