想い出が褪せる頃

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そよそよと清々しい風が吹いている。 天気はいいし、これなら遅めに干した洗濯物も夕方には乾くだろう。 涼真の用意してくれた朝食(兼昼食)を食べ、これまた気の利く事に洗濯の終了した衣類をベランダに干している。 洗濯機を回してくれたのは真咲。ちゃんとバスタオルも入っていた。 両手でピンッと伸ばし一枚づつピンチで留めると広めのベランダが洗濯物で埋め尽くされた。 「よしっと、洗濯終わり!」 空になったランドリーバスケットを脇に抱え室内に戻るとガランとしたリビングに若干の寂しさが。 「やっぱり、一人じゃ広かったよな…」 二人は近くのコンビニに行くと言って出かけて行る。 コンビニで電気ネズミのシールがオマケに付いているスナック菓子を買うために。 下らない事かもしれないが、それも経験。 楽しい事を子供のうちに経験しておいた方がいい。 「部屋の掃除でもするか」 掃除機を取りに廊下から納戸の中を探したが見つからない。 真咲が戻し忘れたのかと涼真たちの部屋に入ってみるとその奥に探している物があった。 「やっぱり」 捜し物の掃除機は壁とカーテンの隙間に立てかけてあった。 しっかりしてきたとはいえ、まだ保育園児。 戻すのを忘れたりもする。 だがこれは軽量スタンド式掃除機の弱点だ。 細いから隙間に置き忘れる事がたびたびある。 「さて、掃除しよ」 よいしょ、と持ち上げて部屋を突っ切った時、タンスの引き出しが開いていた。 少し生地が見えたから、きっと中から衣類を取り出した時にその下も引っ張られて隙間に挟まったのだろう。 「直してやるか」 引き出しを引いて中身を押し込めるが……一部盛り上がっていてこれが原因かなと諦めて引き出しごと引き抜いた。 「あ…」 衣類の下の盛り上がりの正体…これは…いつぞや見たレースの…。 靴下や肌着の下に隠すようにしてしまってあったのは黒いレースの下着だった。 丸めるようにして押し込めてあったせいで薄いサテンの生地に皺がついていた。 「これ…咲百合の…じゃない…よな…」 ペラッと広げて自分の体に当ててみれば、それは自分には若干サイズが小さいようだ。 「俺の身長が192で涼真が178…。咲百合は160位だったから咲百合には少し大きいけど、涼真ならピッタリ…か?」 …空想と連想を総動員して考えてみれば、これはきっと涼真の性癖…。 俺がとやかく言う…そんなつもりもないが…問題はそこじゃない。 正直、…正面から見たい…。 好きな奴がこんなセクシーなモン着たら、そりゃ見たいだろ? でも…ダメダメ、今はその時じゃない。 「ちゃんとしまっとかないと」 …その時が来るかどうかも分からないけど。 「とと〜!なっちゃん家に行っていい?」 外から帰ってくるなりドタドタと大きな足音をたてて、真咲がリビングに入ってきた。 その後ろには涼真。 「いいけど、おやつの時間には帰ってこいよ」 「は〜い!」 「それから、知らない人にはついて行かない事」 「は〜い!」 「じゃ、行ってよし!」 きゃあ〜と玄関にトンボ帰りして、真咲は最上階に住む夏羽の家に出かけて行った。 「夏羽くんとスナック菓子食べるんだって」 「涼真、おかえり。ああ、そういう事」 「流行ってるみたいでさ、もう最後の二つだった」 「へえ」 コンビニ袋をガサガサいわせ、涼真は中からアイスを取り出した。 「俺達はこれ食べよう」 「お、ちょっといいやつじゃん」 「真咲には、内緒」 そう言って涼真は片目をつぶって見せた。
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