想い出が褪せる頃

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赤い舌が白い液体を掬う。 粘度を持った液体は赤い舌に絡め取られ口の中に消えていった。 「ん…」 口を閉じ、その味を確認した涼真は閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げて上目遣いに俺を見る。 「郁弥の…すごく美味しい…」 「もっと食えよ」 俺が差し出したモノを舌先で舐めた。 「あ…そんなにいっぺんに…」 口に咥え、ジュルッと音をたてて啜る涼真の口角から白く濁った汁が零れ、顎に跡を付ける。 「いくら美味いからって入れ過ぎじゃねえの?」 「あって…んん…」 ヤバい… …目に毒だ。 「…ちべたい…」 そんなに美味いのか…涼真の目は若干トロンとしている。 アイス食ってるだけなのに何でこんなにエロいんだ? 未亡人の昼下がりなのか? 俺のはミルク味で外側はホワイトチョコでコーティングされたお高いアイスバー。 体温で解けたチョコが涼真の口の端に着いたまま。 「子供かよ」 真咲にするように、指でそれを拭ってその指を舐めた。 「郁弥こそ、オ…オカンかよ」 一転顔を赤くして軽くどもる涼真。 「はは、そうかもな。ほら、涼真のアイスも寄越せよ」 「口開けて…」 「あ…ん」 スプーンでアイスを掬って俺の口に入れる涼真は何かのスイッチが入ったように…エロい。 食べさせる行為に興奮してんのか? いつも真咲にしてやってる時と表情が違う。 俺の口元を見つめ、細く息を吐く。 オイ、そんな顔、絶対に外でするなよ。 俺だけに、見せろ。 そんな事を考えてるなんて微塵も表に出さないで、俺は舌先でアイスを溶かしその味を堪能する。 「うわー!鼻から抜ける抹茶の香りがいい!」 「美味いだろ?あ…」 涼真の指が俺の顔に触れ、指先が唇を拭った。 「郁弥だって」 俺の目を見つめたまま赤い舌がその指を舐めた。 「な…なんだか今日の涼真…エロい…。目のやり場に困るんですけど」 「え…いや…そんな…い、郁弥は昔からカッコよくて…いや、今も…ずっとだけど…」 涼真は急にしどろもどろになって目が泳ぎだす。 「そ…そうかな…ありがと」 俺の事、そんな風に思ってくれてたのか。 面と向かって言われると…照れるな…。 表に進んで出てくるタイプじゃないけど優しく笑って見守ってくれる、涼真はそういうタイプ。 「…俺は涼真の優しいところが好きなんだ」 「え!あ、ありがと」 好き、なんて言葉、初めて涼真に言えた。 真っ赤になって狼狽えてる涼真を見るのも初めて…。 いつも真咲が涼真の側にいるから、二人きりでこんなに長い時間いたこと無い。 俺は随分と久しぶりの感覚に、緊張感が高まっていく。 「えっと…あのさ…俺と真咲…ここを出ていこうと思う…」 「…え?」 は?このタイミングで?何言って…? 高揚していた気持ちが、一瞬でどこかに散ってしまった。 「何で?俺、何がダメだった?」 寝耳に水のような涼真の言葉。 「ねえ、言って。嫌な所は直す!涼真!」 「違うよ。郁弥に嫌な所なんかある訳ないだろ!」 涼真はさっきとは打って変わって悲しそうな顔をして見せた。
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