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唇を引き結んで眉を下げ、酷く悲しそうな涼真の顔。
「俺達あとちょっとで三十になんだぜ。なのに…俺と真咲が郁弥を独占してたらお前結婚どころか彼女と付き合う事だって出来ないじゃないか!」
ん…?カノジョ…?
この家から出ていきたいと思わせるほど俺が涼真に嫌われたとかじゃなくて?
涼真と真咲のせいで俺が女の子と付き合えないから出ていくって言ってんのか!
「…何だ…そんな事かよ…。俺、嫌われたと思って焦った」
文字通りに俺は胸を撫で下ろした。
てっきり涼真に抱いている邪な感情がバレて嫌われたのかと思ったから。
「そんな事、なんかじゃないだろ?大切な事だ」
至極真面目な面持ちで…というより苦しそうな表情でずっと俺を見ている。
「涼真は気にすんなよ。俺が一番に望んでやってる事だから」
そう、これは間違いない。
俺の本音。
「そんな事…言ったって、俺達郁弥を犠牲にしてる…」
「違う!犠牲なんかじゃない!」
…どうしよう…言ってしまおうか…
…俺の本当の想いを…
…今まで胸の奥底に押し込んでいた邪な想いを…
でも…それこそ取り返しのつかない、戻れない関係になるかもしれない…。
「居心地が良すぎて、他人の郁弥に甘え過ぎた」
口をへの字にして、何かを堪える涼真。
心なしか肩が震えている。
…でもね、涼真。
俺、そんな顔させたくてお前と暮らし始めたんじゃ、ない。
どうせ離れるなら…今までの想いを伝えてもいい?
俺が、どんなに涼真の事が…好きかって…
「…涼真、少し俺に時間を頂戴。俺の話、聞いて…」
潤んだ瞳で俺を見つめた涼真は、見たことも無い辛そうな顔をしていた。
…もう、言ってもいい…よな?
覚悟を決めて唇を開く。
「その…好き…なんだ…涼真の事」
…正面からは涼真の顔が見られなくて、顔はそっぽを向いて積年の想いを口にした。
正面に座る涼真がどんな顔をしているか、俺は知らない。
「…俺の事はいいよ。郁弥が好きなのは女の子だろ?」
軽い苛立ちを見せ、俺の言葉の解釈を違える涼真。
よくよく考えようとも信じようともしてくれない。
ぐっと手を握り締め、正面から涼真に告白した。
「…違う…違うんだよ。俺がずっと好きだったのは…涼真、お前なんだよ」
「…何言って…。郁弥…?」
ようやく言葉の意味を理解したのか、涼真の目が大きく開いた。
「好き…俺を…?え、…だって…今まで…」
動揺して後ずさった結果、ガタンとイスが大きな音を立てた。
「気持ち悪いだろ?…ずっと…二十年以上も、だぜ?」
多分出会ったあの日から…ずっと涼真が好きだった。
どうせ俺から離れていくならと、涼真に呪いをかける。
好きという言葉と俺を紐付けて、忘れられないように……思い出すように。
「さ、もう言いたい事は無いから…ちょっと出掛けてくる。荷物、纏めとけよ」
残っているアイスはもうとっくに溶けていて、手とテーブルがベトベトする。
まず手を洗わなきゃ。
下を向き、涼真の顔を見ないように、目を合わせないように、俺はイスから立ち上がった。
「待って…」
その手を涼真が掴んだ。
「俺、郁弥の気持ち知らないまま、ずっと生きてきた…」
涼真の目は涙で濡れていた。
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