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「知らなかったんだ。だって…郁弥は…、か…かっこいいから…いつも周りに女の子がたくさんいて…」
涼真が視線を下に泳がせ、ポツポツと言葉を選びながら話しだす。
「…俺が…俺なんか近寄れる雰囲気じゃなかった…」
…いや、違うだろ?
「涼真は咲百合といつも一緒にいて…そうだよ。それこそ俺が入り込む隙なんて…一ミリも無かった」
俺が涼真を想って胸を痛めている時、お前は咲百合と一緒にいて…俺は…二人の姿を見るのが辛くて…だから言い寄ってくる名前も顔も分からないような子と付き合ったんだ。
もちろんそんな理由で付き合い始めるんだから上手くなんていくわけなくて、すぐダメになった。
俺の心が欲しい子達はすぐに俺から離れ、俺は次から次へと、取っかえ引っ変え女の子達と付き合っていったんだ。
「郁弥…ゴメン…」
思いつめたような悲しそうな顔。
顔色は血の気が失せたように白い。
眉間には見たことも無いような皺が出来て、一目で涼真が苦しんでいるのが分かった。
ギュッと結んでいた口が開く。
「俺は咲百合の事…愛してた訳じゃ…ないんだ…」
…え?
「だって…涼真は咲百合と結婚式して真咲だって生まれて…」
愛していない…?
それならなんで一緒になって子供を作ったりしたんだ?
「俺と…咲百合は…その…郁弥には理解出来ない関係だった…と思う…」
…理解出来ない?
「まずその…郁弥は誤解してて…」
「誤解?」
「咲百合と一緒にいたってトコ」
…は?
誤解しようがないだろ?
お互い好きだから…一緒にいたんだろ?
「言い訳するようだけど…あれは…好きだから一緒にいた訳じゃなくて…その…」
「ハッキリ言ってくれよ」
落ち着かない様子の涼真は片手で顔中を触りまくっている。
「あれは…二人で秘密の共有をしてたんだ…」
「秘密…」
血の気が失せていた涼真の顔に赤みが差し、その色がどんどん濃くなる。
「何?その秘密って」
「…聞きたい?」
俺は首を縦に振った。
当然だろ?
ここまで来て、俺はもう後戻り出来ない。
「好きな人の事…」
「え…?」
「二人で…好きな人の事…ずっと話してた」
「お互いの事?」
そう言うと涼真はキッと俺を睨んだ。
「違う。俺の好きな人と、咲百合の好きな人」
好きな人が…違うの?
「意味分かんないんだけど…」
噂では二人は付き合ってた…
…だって、夕暮れの図書室で二人微笑んで…
…何てお似合いのカップルなんだって、羨ましくて仕方なかった。
でもおっとりした涼真には少し気が強い咲百合がお似合いだともその時思ったんだ。
「俺は咲百合の好きな人の話を聞いて、咲百合は俺の好きな人の話を聞く。…だからどっちかって言うと同士みたいな関係…だったのかも」
俺には涼真の言っている事が理解出来なくて、ただ黙ってその話を聞く事しか出来なかった。
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