想い出が褪せる頃

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今日は木曜日だから二泊三日の校外学習が終わって真咲が帰ってくるのは土曜日の夕方頃。 それまで涼真と二人っきり。 出勤してニヤつく顔を必死で取り繕って上っ面だけ真面目な表情をしてみても弾む心は抑えられない。 真咲が小学生の時も移動教室や修学旅行で家を空ける日があったけれど、五年生の時は涼真が体調を崩して寝込み六年生の時は俺が出張で家を空けた。 今回初めてまる二日、二人で過ごす。 そう、二日間。 今日は普通に出勤なのだが明日の金曜日は涼真と二人で有給休暇を取得した。 土曜日は基本的に休み。 だから、まるまる二日間。 真咲の目を気にすること無く涼真と過ごせる。 大人になって随分と時間が過ぎたのに、実は思春期の子供のように浮かれてんだ。 「はぁ…ふふ…」 「香束…上機嫌だな」 「え…あ…いや、すみません…」 ヤバい…仕事中! 佐藤リーダーだけでなく、先輩の中野さんの視線まで冷たく刺さる。 「さーて、仕事しごと…」 早く帰る為にも…さっさと仕事を終わらせねば! …という俺の固い意思によって仕事を滞りなく終え、意気揚々と会社を出た。 俺がスーパーで買い物をしていると、帰りが少し遅くなると涼真から連絡があった。 「涼真、忙しいんだな。でも今日位は涼真も飲むかもだし…ちょっといいワイン買っても…いいよね」 1本だけ買い物カゴに普段は買わないワインを入れて、俺は会計を済ませた。 マンションまでの道すがら、俺は晩飯とその後の事を考えていた。 シュミレーションは完璧。 荷物をテキパキとしまいエプロンを装着。 「二人だからな、簡単な物でいいよな」 誰に言うでもなく、一人でいるのに口に出す。 卵、ザーサイ、キクラゲをピリ辛で炒めれば酒のアテには申し分ない。 ご飯のオカズにだってなる。 後はキャベツの千切りにミニトマト、豚肉を塩と胡椒で焼けばオッケー。 「味噌汁忘れてた。豆腐でいっか」 パパッと手早く仕上げてテーブルに運んで…おっと、グラス! 「今日はちょっとだけ…」 …涼真と、大人時間。 ディナーと言うほどのものではないが、涼真と二人ならこれで充分。 「あとは…」 寝室を整えたり風呂を準備したりと…下心が見え見え…。 「これ、どうしようか。とりあえず置いとこうか…うーん…」 決めかねていると玄関から微かに金属音がした。 「涼真帰ってきた」 玄関にで迎えればそこに愛しい人。 「おかえり」 「郁弥、ただいま」 涼真の目が俺だけを見る。 …ああ、コレ…凄くドキドキする。 「りょ…うま、晩飯食べるだろ?もう、出来て…」 「郁弥…」 「…」 靴を脱ぐなり胸にもたれかかる体温。 鼻を擽る涼真の匂い。 「俺を甘えさせてくれるんじゃなかった?」 「…そんな事…言ったな…」 「はは…先は長いんだから、とりあえず飯食っちゃおうよ」 「うん」 強く抱き締めてキスしたかったけど…ちょっとだけ我慢。 夜はこれからだから…。
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