想い出が褪せる頃

46/160
前へ
/160ページ
次へ
「美味かった。ありがとう郁弥」 二人っきりの食事を終えて少しホワンとしている涼真。 今日の涼真はひどく可愛い。 ほろ酔いでいつもより血色が良く目がトロンとして見えるせいか普段よりも幼く見えた。 「ワインはどうだった?」 「ん、香りが良くて…色が綺麗」 ロゼのスパークリングワイン。 ほんのりピンク色でフルーティーな香りがする。 「涼真、飲みすぎちゃったね」 「…酔ってないし」 口を尖らせて反抗する様子も何だか可愛い。 「風呂に入れる?」 「…んー…どうかな…?」 テーブルに頬杖なんかついて小首を傾げる…こんな涼真を誰にも見せられない。 …と言うか、…見せたくない。 いつの間にか小指の爪を噛んで、食器を持ち席を立つ俺を目で追っている。 「それってさ、誘ってるの?」 流しに食器を置いてから涼真の後ろに回って、肩に顎を乗せるようにして後ろから涼真を抱きしめた。 「…ふふ…そう見える?」 そうにしか、見えない。 …でも、俺は凄く嬉しいんだ。 「一緒に…シャワー浴びよう?」 「…ん…あ…」 返事を待たずに唇を近づけ、涼真の細い首筋に薄く一つだけ赤い花を咲かせた。 「ん…きもちい…」 仕上げにザーっとシャワーでお湯を掛けた。 涼真の丸洗いを一度やってみたかった。 真咲には数え切れない程した事。 それも小学校低学年まで。 俺は涼真も洗ってみたかったんだ。 …俺の手で。 「俺も洗ってやる」 濡れた髪から雫が垂れ、バスルームの床に落ちた。 「ありがと…でも」 視線を落とせば涼真のそれも一緒に落ちていく。 「もう…待てない…」 正面から涼真の身体を寄せ、昂る俺を涼真に押し当てた。 「あ…冷た…」 少し火照った涼真の身体をバスルームの壁に押し付けてぎゅっと抱き締めた。 「郁弥…そんな可愛い事してくれるの?」 そう言って涼真は俺を抱き返す。 「滅多に出来ないし、いいだろ」 揶揄われても離さない。 「はいはい」 まるで子供にするようにポンポンと頭を撫でるからすりすりと涼真の額に頬ずりした。 「…ここからは大人の時間…キス…してい?」 「…ん…」 唇を押し付けると涼真のそれは薄く開いていて、涼真が俺を欲してくれているのだと感じた。 柔く食むと涼真が俺の顔を両手で捕え…舌を差し込んだ。 …待てなかった…? …嬉しい…。 バスルームにはぴちゃぴちゃと水音が響く。 舐めて、吸って…歯茎や上顎を心ゆくまで舐めて、舐められて…唇がちょっと痺れてきたけれどまだ足りない。 「ね…郁弥…もう感覚…ない…」 キスの途中で俯いて口を離し、俺を見上げる涼真は濡れた唇が真っ赤になって、まるで口紅を塗ったみたい。 顔も身体も上気して、見ているだけで身震いする。 「りょ…」 「待って…」 涼真が手のひらで俺の口を隠した。 「立ってらんない…。ベッド…行こ…?」 「…うん…」 上擦った声で返事をしてバスタオルを涼真の肩に掛けてやり、俺たちはバスルームを後にした。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

480人が本棚に入れています
本棚に追加