想い出が褪せる頃

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暑い日だった。 緑が濃く茂っていた頃だから、たぶん…初夏の頃。 小学校の最高学年の頃…いつものように涼真と二人で一日遊んだ休日、俺の家で昼食を取った午後に二人で揃って昼寝をした。 優羽は多分母と出掛けていて、家には俺と涼真の二人きり。 俺は百六十センチ超えの身体を小さく折り畳んで眠っていた…と思う。 ただ、その日は本当に暑くて…額や、畳にくっ付いていた脇腹がじっとりと汗ばんで、その気持ち悪さに早々に目が覚めた。 伸びかけた髪が肌に張り付き汗で濡れた体は不快でしかない。 家の中は涼真の寝息が僅かに聞こえているだけだった。 ゴロンと寝転んで身体の向きを変えると、目の前に涼真の背中。 ゲンコツ一つか二つ分俺より小柄な身体は自分より一回り細く、華奢だった。 涼真が着ていた白いTシャツは寝返りのせいか捲れ上がって背中が直に見える。 腕と違って日に晒されていない白い肌。 何かに引き寄せられるように俺の指がその背中に触れた。 「あ…汗…」 しっとりと濡れた背中を手のひらで触ると気持ち悪いはずなのに、ヒュッと気管を通る空気の音がして何故か胸がドキドキした。 男同志だしいつもふざけて抱き合っている身体なのに…初めて感じる高揚感。 顔が熱いのは気温と湿気のせいだけだろうか。 まだそこから離すことが出来ない手のひらを首に向かって動かした。 手首に引っ掛かった白いシャツはそのまま持ち上がって涼真の背中が顕になる。 ゴクンと喉が鳴った。 細くしなる背中に引き寄せられるように顔を近づけて瑞々しい肌をペロリと舐めた。 「しょっぱい…」 汗の塩気と湿度を孕んだ体臭。 子供心に……たまらなかった。 「いたた…」 下半身に張り詰めた痛み。 起床時に感じるようになった違和感よりも、もっと意志を持っている痛み。 横を見ると涼真はまだぐっすりと眠っているみたいで…若干呼吸が荒くなっていた俺は自分の本能に従ってそこを慰める事にした。 仰向けに転がり半ズボンと下着をずり下ろし、ふるんっと そそり立ったこの状態を何と言ったか。 保健の教科書で見たそれとは少し大きさや形が違ったような気もするのだが…それはきっと俺がまだ子供だから。 恐る恐る手を伸ばして勃ち上がったそれを掴み、上下に扱いた。 「あ…ぁ…ぅ…」 そっとしているつもりでも 敏感なそこは反応し、反応すればますます興奮してさっきよりも硬く太くなった。 「これ…いつまでするんだ…?」 幼馴染みの同性とはいえ見られたらただでは済まないだろう。 涼真を気にしつつも男の性か、このまま生殺しには出来なかった。 拙くとも自分の体くらい自分でどうにかしようと闇雲に手を動かした。 「あ…あ…」 もう出る、出そう…そう思った時には身体が硬直し手の中に生暖かい感触。 「ふぅ…んん…」 ブルっと体が震え、俺は自らの意思で射精した。 「ティッシュ…」 出てしまえば早くこれを何とかしたくて、ズボンも下着も中途半端に下ろしたまま膝立ちで手を伸ばしティッシュを掴んだ。 その時、庭の方からカタンと物音がした。 「え…?」 …誰…? …見られた? はっとして庭の方を振り返ってみたが…人影はない。 猫でも通ったのだろうか…? …大丈夫…。 自分にそう言い聞かせて俺は身支度を整えた。 目覚めた時より服は湿り気を増していたが身体は薄ら怠く気持ちいい。 何事も無かったように再び涼真の隣に横になって目を閉じた。 「ん…」 暖かな人肌に擦り寄れば涼真と身体をくっつけたままで、俺はイッた後少しの間昔を思い出していた。 「涼真…重かっただろ、すまん…」 そう呟いて身体をどかし、すぐ脇に身を置いた。 涼真の無防備な横顔。 子供の頃と何ら変わらない。 変わったのは…何でも知っていたはずなのに、知らない事が増えた事。 何でも話していたのに、肝心な事は聞けないでいる事。 あー…大人って面倒臭い。 いや、大人だからって訳じゃないな。 まだ子供だった頃からだから…涼真に関しては長期に渡って拗らせてる自覚は、ある。 お前の事は何でも知りたい。 聞いたら…答えてくれる? ねぇ、涼真…。
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