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…やっぱり、…と言うべきなんだろうか。
涼真の言葉をにわかには信じがたいと思いながらも…色々な事がストンと胸に落ちた気がした。
「真咲……」
口に出せば俺と視線を合わせずに涼真は頷いた。
「真咲は…遺伝子的には咲百合と先生の子供」
遺伝子的なんて、…そんな言い方…。
「でも…育てたのは、先生じゃない。俺と郁弥」
「…うん。俺と涼真が真咲を育ててる」
眉間に寄せていた皺が、いっそう苦痛の表情を醸す。
「咲百合は先生の元にずっと通って、一回だけ体の関係を持ったって嬉しそうに言ってた。その時先生の奥さんはこの世にはいなかったし、咲百合は成人してたから倫理的には問題無かったと思う」
「…じゃあ…その時…」
「…多分…ね…」
大崎先生と関係を持って、咲百合は何を思ったんだろう。
小さな命を授かって、咲百合はどんな未来を想像したんだろう。
その時、涼真がふとベランダの方に目をやった。
釣られるようにその視線を追いかけると、陽射しの下で旗めく洗濯物。
「こんな日だった…」
「…え?」
「冬だったけど…こんな天気のいい日に…咲百合が死んだんだ…」
…咲百合…
咲百合からの手紙で、俺は涼真に会う決心をした。
会って、涼真を助けていこうって決めた。
連絡を取り合ってなかった俺は咲百合が亡くなったのも知らず、その後届けられた手紙によってその事実を知ったのだ。
『 私が死んだ後でこの手紙を読む郁弥へ 』
そんな書き出しの手紙。
これは俺への遺言なんだとその時思った。
「咲百合…体が弱かったんだ…」
「……」
頬杖をついて、涼真はまだ窓の外を見ていた。
初夏の風が優しく室内に吹き込む。
「…知らなくてさ…妊娠が分かった時に 俺…軽率に産みなよって言っちゃったんだ…」
咲百合と先生なら…まだ未来が見られる、そう思ったんだろう。
「…でもさ…子供を産む直前に…先生が亡くなって…大きなお腹を抱えて咲百合は葬式に行ったんだ…。どんなに辛かったろう…」
涙超でポツポツと話す涼真。
テーブルの上に水滴が増えていく。
「…父親と二人で暮らしていた咲百合は先生が亡くなってから実家に居るのが辛くなって…それで…俺と暮らし始めたんだ」
…涼真の優しさ。
涼真だけが咲百合の理解者だった。
「俺さ…真咲が生まれて…嬉しかった。…他人なのに…」
「…違うだろ…」
「…いいんだ…事実なんだから」
他人なんて言葉、寂しくて…辛い。
「…指が…生まれたばかりの真咲の小さな指が…俺の指を握って離さなかったかったんだ…。郁弥、産まれたての命が…俺を…選んでくれた…」
「……」
「…だから…俺が、先生の代わりに この子の父親になるって…なるって…決め…て…ぅ……」
頬杖をしていた手はいつの間にか涼真の顔を覆い、震えていた。
「俺…俺が…真咲と…咲百合を…先生の…うっ…代わりに…ま…守って……うぅ…っ…」
言葉が嗚咽に変わる。
「もういい…いいから……」
ガタンとイスが倒れ、俺は涼真を胸に抱きしめた。
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