想い出が褪せる頃

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寝室は一晩中温もりを確かめあった痕跡が生々しくて、シーツは皺くちゃで枕もベッドヘッドにもたれた何とも言い難い状態だった。 「まず…シーツ替えようか」 「そうだね…はは」 思わず顔を見合わせて二人で笑った。 掛け布団と枕をどかし、二人で新しくシーツを掛け替えるとまず涼真がベッドに寝転がった。 「ほら、郁弥。来いよ。気持ちいー!」 「ああ」 手を伸ばして涼真は俺を呼ぶ。 隣に体を滑り込ませ触れずにじっと近距離で涼真を見つめた。 俺の事が好きな、俺が好きな人。 一生一緒にいたいと思う人。 「俺…涼真と真咲と家族になりたい」 涼真は一瞬、ビックリした顔をして…それから口をキュッと結んだ。 「もう…家族だろ?郁弥も真咲の父親と同じ」 「…うん。ありがとう…」 コツンとおでこを合わせ、目を閉じる。 自分の存在を涼真に認めてもらった、…そんな気がした。 「ねえ、郁弥…」 目を開けば再び涼真と視線が絡む。 「…ね、触ってもいい?」 色のある目つきで涼真が誘う。 「…うん。いっぱい触って」 手をシャツの裾に潜り込ませ涼真の手が腹筋をなぞった。 優しく触れてくる手が愛おしい。 「…脱がせても…いい?」 「…うん」 涼真が膝立ちになり俺の体を跨いでたどたどしく服を捲る。 「ほら、俺にもさせろよ」 そう言えば涼真は体を前に倒して俺の手を腰に誘導した。 「ぬ…脱がせて…」 シャツの裾をを勢いよく引っ張ればボサボサ頭の涼真が恥ずかしそうに俯いていた。 服を脱ぎあって…裸になって、…抱き合って。 昨日、散々愛し合ったのにまだ足りない。 手のひらで、唇で……身体の隅から隅まで辿るのももどかしいくらい…。 それでも体温を感じたくて涼真の胸に頬を押し当てた。 「…郁弥こそ…可愛いじゃん」 ……む…。 …可愛いのは、涼真だっていつも言ってる。 「…甘えていいんだろ?」 「…うん。たまには甘えられたい…」 仰向けの涼真に覆いかぶさったまま、片手だけ恋人繋ぎにしてみた。 緩く握ると、ギュッと握り返された。 涼真の手は俺の髪を混ぜ、背骨を辿る。 「郁弥の身体、男らしくて…好き」 「まさか、体目当て…」 「違うよ!」 「おれだって涼真の身体…靱やかで腕にすっぽりと納まって…エロくて…好き」 「…恥ずかしい事、言うな…」 「やだよ、言う」 それからは言う、言わないの応酬を続けたあとゴロンと転がって体勢を入れ替えた。 「重かったろ?」 「平気だよ。俺、男なんだから」 「こっちの方が両手で触れるし…」 俺はそう言って自由になった両手で涼真の脇腹から太腿を撫で下ろす。 「…ちょっと!触り方がいやらしいよ」 「いいんだよ、これからいやらしい事すんだから!」 頬を染め、恥ずかしそうに唇を噛む。 あんな事やそんな事をしても、涼真はまだ照れて赤い顔をするんだ。 金曜日の午後、まだ日が高いのに俺は涼真の頭を引き寄せて深く口付けをした。
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