想い出が褪せる頃

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二人分の簡単な昼食を用意して、涼真とテーブルで向かい合わせに座りゆっくりと食べる。 窓から見える空はまだ青く、強い陽射しが降り注いでいた。 ベランダではさっき干したばかりのシーツが気持ちよさそうに揺れ、どうやら少し風が出てきたようだ。 「この先、どうなるんだろうな」 「…何が?」 「家を出ていくとか言い出すのかな」 あぁ、真咲の事か…。 チャーハンを掬ったままスプーンが皿の上に留まっている。 「今すぐって事は無いだろ。真咲が自立するまでまだ時間はある」 「…そうだな」 儚げに微笑む涼真に胸が痛む。 俺は涼真にそんな顔をさせたくないんだ。 「寂しそうな顔すんなよ、真咲が見たら心配するだろ?」 「…うん」 「食ったらスーパー行こ。今日は涼真が食べたい物作ってやるよ」 「ありがと。何が食べたいかなぁ」 「…とりあえず目の前のチャーハン食ってくれ」 俺は部屋を整えたり飯を作るしか出来ないから。 二人に笑顔になってもらえるように美味い飯を作るんだ。 でもいつもと同じように作ったはずなのに、胸が詰まってスプーンが進まない。 でも全部腹に納めた。 俺は普段通り二人に笑っていて欲しいから。 昼食を終えて涼真が台所を片付けている間に朝一番に干した洗濯物を手早く畳む。 さらりとした軽い肌触り。 「よく乾いてる。でもシーツは…まだだな」 最後に干したシーツだけはやや湿っているようで少し向きを変えてそのままベランダに掛け直した。 「あと二時間もあれば大丈夫だろ」 乾いた衣類をカゴに移し室内に戻るとちょうど涼真がエプロンを外す所だった。 「郁弥、終わった?」 「今、ね」 「スーパーの前に本屋に行きたいんだけど、いい?」 「ああ、いいよ」 「じゃあ着替えてくる。あ、コレ部屋に戻さないと…」 慌ただしく動く涼真を目で追い、俺は自室で着替え涼真と家を出た。 「日差しが強いね。でも風が吹いてるから幾分か楽だけど」 「そうだな…」 気温の割に時々冷たい風が肌を掠める。 「夕立が来るかもしれない…」 「え?あれ、そう言えば雲がでてる…。朝は無かったよな」 ポツポツと空に見えていたはずなのに、その数は倍以上に増えていた。 「今すぐ降るって感じじゃないから大丈夫だろ」 「そうだな」 それでも何となく足を早めて駅前の書店に向かった。 入ってすぐに涼真と別れ、俺はパソコン関連の棚の前で数冊手に取ってパラパラと捲った。 学校で習っているみたいだが真咲も本格的にパソコンに慣れ始めた方がいいだろう。 初心者向けの本を一冊買い求めてから涼真との待ち合わせ一階入口へ向かうためにエレベーターのボタンを押した。 到着したエレベーターに足を踏み入れれば開放型の窓の外には一面の雲。 「雨雲か…?」 青空に浮かんでいた白い雲はいつの間にかその形を膨らませ、大きな積乱雲になっていた。
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