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「そこには誰もいなくなり、雨が激しく降る中に豆腐を握りつぶす音だけが響いていた」 目の前に座る同級生の葉山津樹は低い声で話し終えて、目の前にあった蝋燭の炎を「ふっ」と吹き消した。蝋燭の灯りがひとつ減った分だけ、オカルト研究部の部室は暗くなった。 部室は閉め切った窓に暗幕を引き、真っ暗だ。ブオンブオンとエアコンがフル稼働する音に混じって日暮の声が微かに聞こえる。 オカルト研究部の夏休み前の恒例で最大行事の怪談百本ノック中だ。 部員の六人できっかり百本の蝋燭が灯るテーブルを囲んで、怪談を披露しては一本ずつ消していく。 一人当たりの怪談は十八話にもなり、ネタを用意するので一苦労だ。 語った後の津樹の顔には「どうだ、怖かっただろ」と書いてある。 あたしは「ふー」とため息をついた。 「あれ?星山さん、つまらなかった?」 「つまらなくはないけど、ちょっと色々と矛盾があるよね。たとえば」あたしは人差し指を立てて説明をはじめる。 「最後のところなんておかしいところだらけだよ。誰もいなくなったのに、その怪談が伝承されていることとか、豪雨の中に豆腐の潰れる音が響いてみたり。豆腐を潰す音って聞いたことないけど、あんなにやわらかいのにするの、音?土砂降りでも聞こえるくらいに?」 あたしは津樹以外の部員の顔を見回す。 みんな、首をかしげたり、左右に顔をふったりしている。あたしはみんなの同意を得たと思い話を進める。 「あたし、国語は得意だからさ、物語の辻褄が合わない感って許せないんだよね。怖くなくても良いから、スジはきちんとして欲しいんだよ」 津樹はうつむいている。傍らにある蝋燭の炎が前髪に燃え移りそうだ。 津樹が小さい声でぽつりと言う。 「星山さんの怪談は理論的に破綻してないけど、怖くないし、おもしろくない。オカルトなんて興味ないでしょ。美人だし、絵も上手くて美術部にも入っているし、こんな場末のオカルト研究部と二股する必要ないじゃない」 「なに!やるか、この!」あたしは拳を握る。 パンパンと大きく手を打つ音がした。 「ほら、もう、会うたびに喧嘩しないの!星山も高校生の部活動にプロ怪談師テクニックを求めないで。津樹も星山はオカルトに興味ないって訳じゃないの。むしろ当事者っていうのか。もう、今日はここまでで終わり。吹き消した蝋燭だけ回収して、残りの蝋燭の火を消して。続きはまた明日ね」
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