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家の近くにある緑の多い公園。子供たちがよく遊びに来るここは、俺にとっては授業が早く終わる日にたまに来るオアシスである。
公園のすぐそばには自販機があり、そこで売られている缶のサイダーが格別に美味い。ペットボトルのものと違って、キンキンに冷えた缶の口の部分へ唇を当てた時のあのひんやり感がたまらない。
そして何といっても、喉を通るときに暴れるサイダーの泡たちが俺の喉を刺激し潤してくれる。
俺の渇きを最高に癒すのはここのサイダーだけだ。
でも、今日はここのサイダーでも俺の渇きを癒すことはできなかった。
よっぽどこの前の出来事が俺に影響を与えているのか。今日が暑すぎるだけなのか。それとも、サイダーなんて初めから特別でもなんでもない飲み物で、馬鹿な俺が一人で盛り上がってただけで、俺のサイダーは虚しい人生の虚しい飲み物だったのかもしれない。
今日は雲一つない快晴。
俺の心も快晴だ。
溜息とともに渇きが増した。
「おじさーん!足元のボールとってー!」
突然子供の声が聞こえ、足元を見る。
そこには大きめの柔らかいゴムボールが転がっていた。
数人の子供が駆け寄ってくる。
子供はいいなぁ、自由で。戻りてぇーなー、あの頃に。
早く大人になりたいとか言ってた自分を恨むぜ。
……てか、おじさんは心にくるな。
「おじさんありがとう!」
「おじさんじゃなくて、お兄さんな!」
俺の快晴がおじさんで埋まってしまった。
「うわー!怪人激おこぷんぷん丸だ!」
「そんな言葉どこで覚えたんだよ」
「お母さんが言ってた」
「ははっ」
子供はちゃんと大人を見てるんだな
「てか俺怪人なのかよ!」
「そう!今からヒーローごっこやるんだ!」」
「俺もやんの?てか、それなら俺もヒーロー役がい……」
雄太は何をやりたいの?
喉の渇きが想像を絶するものになった。
「……やっぱ、ヒーローごっこは君たちだけで遊びな」
「えー、なんでー」
「今やる気分じゃないんだよ、ごめんな」
「うーん、じゃあ、ヒーローやっていいよ」
「え?俺が、ヒーローやっていいの?」
「うん。でも、ぼくがリーダーだからね!」
……でも
「でも、やっぱ大人がヒーローごっこするのはどうかな……」
「大人はヒーローごっこしちゃだめなの?」
その一言が、サイダーみたいに俺の喉を刺激した。
「……たしかに、たしかに誰も大人がヒーローごっこしちゃいけないって言ってないもんな」
そうだ。別に大人がヒーローごっこしてたっていいんだ。子供が元気に何でもやるように、大人だって何やってもいいんだ。
喉元でシュワシュワと感情が広がる。
「よっしゃ!やっぱお兄さんもヒーローごっこ入れてくれる?」
「うん!やろーやろー!」
「ありがとう!あとで皆にサイダーおごっちゃうぞー!」
あいつらは今頃頑張ってるんだろうな。かっこいいな。
でも、俺はヒーローごっこをしてる俺をもう恥じない。
あいつらがやってることは俺にはできないけど、俺が今やってることもあいつらはできないんだ。
ヒーローごっこは俺しかできないんだ。
これからのことはこれから考えればいい。
今はただ目の前のことに熱中して、楽しんで、全速力で走ればいい。
もし途中で喉が渇いたなら、
この昼下がりの公園で、サイダーを飲めばいい。
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