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それからハトは、毎日のようにスミレに会いに行きました。
「スミレ、また踏まれちゃったの?」
スミレが泣きながら桜を見上げていた時、上品なグレーの羽を広げて、飛んで行くのがハトでした。
「ねえ、どうして人間は桜姉さんが好きなの。なんで私を見てくれないの」
ハトの柔らかな羽で顔の泥を掃ってもらいながら、桜姉さんの下にいるからだ、とスミレはもっと大声で泣きます。暗い場所、花がない場所に咲けば、もっと目立つのに。きっと皆に見てもらえるのに。
スミレはそう思っていました。
人間は桜の枝を折られると腹を立てるのに、スミレのことは平気で踏んづけていきます。誰も小さなスミレのことなんか気にしないのです。
「大丈夫だよ。僕が見てるから。スミレが可愛いんだって、僕が知ってるから」
「ハトさん、ハトさんだって本当は桜姉さんの枝にとまりたいんじゃないの。私みたいな花の傍にいていいの。ほら、ハトさんの家族もお友達も、皆桜姉さんの上を飛んでるわ」
スミレは思わず言いました。自分より桜の方が可愛いことを、スミレが一番よく知っていたからです。そうすると、ハトは真面目な顔で、すぐに首を横に振りました。
「そんなことない。桜さんも綺麗だけど、スミレの方が可愛いよ。スミレの方が明るいよ」
「……ありがとう」
「スミレといると、とっても元気が出るんだ。長く飛んで疲れてても、また頑張ろうって思えるんだ。ほら、初めて会った時だって、スミレが頑張って立ち上がって、真っすぐ前を向いてたから、僕も頑張ろうって思ったんだよ。スミレのおかげなんだ」
そしてハトは、まだ心配そうなスミレに、
「ねえ、スミレ。そんなにここが嫌なら、僕の家へおいでよ。一緒に住まない?」
と思い切って言いました。
スミレはビックリして、ぴょこんと葉っぱを立てます。
「いいの?」
「もちろんだよ。そこなら誰もスミレの悪口なんか言わないし、誰もスミレの顔に土をつけたりしないから」
「私、ハトさんと一緒に住んでもいいの?」
スミレは嬉しくて、飛び跳ねたくなりました。ウズウズするし、ワクワクします。
ハトはニコニコしながら「うん」と言って、スミレの根っこを土の中から出してあげました。そうしてスミレの茎を口の先で優しく挟んで、パッと飛んで行きました。
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