スミレを咲かせたハト

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スミレを咲かせたハト

「うう……」  小さな声をあげて、ハトはばったり地面の上に倒れてしまいました。あんまり長いこと飛んだから、疲れて、羽が動かなかったのです。  ぐっと顔を上げて、動こうとしました。でも、なんだか動きたくないし、動くと体中が痛いのです。 「いいなあ、桜さんのところまで行きたいなぁ……」  ハトは上げたばかりの顔を、また下げてしまいました。そして、顔じゅうに泥を付けたスミレに気づきました。  桜の下に、スミレは咲いています。  その周りを、お花見に来た人間達が歩き回っていました。時々、靴がスミレを踏みつけてしまいますが、誰も気づきません。  スミレは澄んだ紫の花びらをふるふると振りながら、人間には見えない涙を流していました。  それでも、何度踏みつけられても、必死に茎を真っすぐにして、葉っぱで顔の泥や涙をこすりながら、真っすぐに前を向いていたのです。  ハトはとてもびっくりして、そして、急に泣きそうになりました。あれだけ動かなかった体が、急に軽くなりました。  顔じゅうを泥だらけにして、ボロボロ涙を零して、それでもただ真っすぐに、一生懸命前を向いていたスミレを見ていたら、自分も頑張らないといけないという気持ちが湧いてきたのです。  泣いているスミレを、笑顔にしないといけないと思ったのです。
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