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はじめに
「カーン、パシッ、ゲームセット」
私はこの日初めて野球場にやって来た。理由としてはパパが会社の人から野球のチケットをもらったから家族で行こうとなった。
それまで私も含め、野球場おろかテレビでも野球を見たことがなかったのにこの試合で野球というスポーツの面白さを知った。プロ野球選手になりたい、そう考えるようになった。
名前は水無瀬美莉愛9歳、福島県の山あいに住んでいる。ひょんなことから野球というスポーツを知ることになったが美莉愛もやりたい。グラウンドを駆け巡りたい。そう思える日がくるのか、そもそもこんな山あいに野球をやりたいという女の子、いや男の子すらいないのではないかと感じていた。
幼稚園に入ると鉄棒や跳び箱等の器械運動は他の子たちと比べてみると抜きん出ていた。周りの子たちや大人たちからは今からでも体操選手にした方がいいのでは?
でも美莉愛自身として幼稚園の時から将来を決められるのはイヤ。褒められること、期待されることは嬉しいけどもと複雑な気持ちでいた。
教室に戻ると英語の授業。他の子はアルファベットを覚えるのも四苦八苦、簡単な挨拶が出来れば上出来といった中で美莉愛は遊びながら英語を覚えていたこともあって自己紹介くらいは出来ていた。先生はスゴイと拍手をしてくれるが他の子たちは決してそうではない。
眼光が鋭い、これは羨むような雰囲気ではなく何あの子?自分だけ出来てスゴイと思っているの?そういった妬みのような雰囲気がしていた。
自分がスゴイとは思わないし他の子たちを蔑むつもりなんてこれっぽっちもない。だが美莉愛は妬みからイジメられることになる。
「おい、美莉愛。俺らと肌の色が違うな」
そう、美莉愛の顔は他の子たちと比べて薄い。純正な日本人だがある理由でそうなっている。
それはおばあちゃんが外国人であり、美莉愛は所謂クウォーターでその血を引き継いでいる。運動のことや勉強のことでとやかく言われるならともかく顔のことでそう言われても……。そう思ったら涙が出てきて先生に事情を説明した。
すると先生が美莉愛ちゃんに謝りなさい。人の顔のことで揶揄うのはよくない。そして男の子は美莉愛に謝ってきた。ここでこの件についてはおしまいだと思っていた。
美莉愛は幼稚園から帰ると家に電話が入った。ママが電話を取ると幼稚園に来て欲しい、それも美莉愛ちゃんと一緒に。
ママはそう言って美莉愛を車に乗せて再び幼稚園に向かった。なぜ呼ばれたのか2人とも分からず教室のトビラを開けた。
「この度は息子が水無瀬さんに失礼なことを言ったみたいで、ホントに申し訳ございせん。つまらないものですが受け取ってください」
先生が間に入ってなぜそうなったのか経緯を聞いて男の子には意地悪しないことを約束された。
また家に帰ってきて手を洗い、おやつを食べようとしたが何も用意していなくてママは貰い物のお菓子を切り分けていた。
「ママ、このお菓子なんて言うの?」
「これはバウムクーヘンっていうお菓子だよ」
そうなんだ、こんな美味しいお菓子を食べられるならまた男の子にいじめられようかな。
コラ美莉愛、そんなこと言うものではありません。そんなこと思ったらダメだよ。
幼稚園を卒園して来月から地元の小学校に通うのが仕方なかった。それはおじいちゃんに買ってもらったかわいいパープルのランドセルを背負いたかったからだ。
やっと幼稚園から離れられる、いじめてくる男の子がいなくなる。そう安堵していた。
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