昔々あるところ

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パーティーまで残りあと三日。 継父と継兄のスーツは肩や首周り、腕の長さもピッタリにした。あとは二人分のズボンの裾上げだけとなった。 でっぷりと肥えた二人の腹なら胴回りの直しは必要ない。 これなら、十分間に合う。 ホッとしたのもつかの間。糸が短くなり一度糸を切る。 裁縫箱から、新しい糸を取り出そうとして気がついた。 糸を買い忘れていた。街に行かなければ。 考えるだけで、一気に身体が重たくなった。 窓の外では城がぼんやり光る。 夜の闇の中でも月より目立つ城。 針仕事のコツを教えてくれた友達は、真っ白で美しい城を見れば、気分が晴れると言っていた。 ワタシはそんなこと思ったことがない。 恨めしい気分を隠して絶望に目を瞑った。 翌日、ワタシは街の仕立て屋に糸を分けてもらいに行った。 街のどの仕立て屋も糸を分けるのを渋る。 なんとか寄せ集めの糸くずを分けてもらい続け、気がついたら日が沈みかけていた。 一日中駆けずり回ってクタクタで、街の中央にある噴水の縁に腰掛ける。
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