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噴水の水で喉を潤せば生きた心地がした。
とはいえ駆け回った疲れは、すぐにとれない。
早く帰って、仕事に取り掛からなくてはいけないのに。
真っ白な城までもが早くしろと駆り立てるように思えた。
鬱々とした気分が戻ってくる。
振り払うように立ち上がる。
そこに掲示板の前に佇む男がやってきた。
あの胡散臭く笑う男だ。
今日はのんびりしている暇はないとあしらったのだが、疲れた身体で仕事をしても効率が悪いと引き止められた。
せめて脚の疲れだけでも癒やしてからと、根負けし噴水の縁に腰掛け直す。
ワタシが帰らないと分かると、男は微笑む。
先程までと同じ人の良さそうな笑顔。違うのは層深まる笑い皺だ。
「パーティーの支度は出来ましたか?」
飄々と聞いてくる男に、ワタシは首振った。
「うちの父と兄は毎回、仕立て屋に大きめサイズで頼むのですよ。直すのに時間がかかります。体より二周りも違うんです。滑稽さを通り越して笑ってしまいますよ」
実際、針を通しながら笑っていた。
ワタシの細やかな憂さ晴らしだ。
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