昔々あるところ

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昔々あるところ

『君にしかできないことなのです』 魔法使いはワタシに運命を託した。 ゴーンと重厚な鐘の音が十二回。真夜中を知らせた。 鐘の音がやむと、また静粛が戻ってきた。 ホーホー。 鐘の変わりにどこかでフクロウが鳴く。 目を瞑れば森の息づかいを感じた。 屋根裏から真っ直ぐ見える城は、いつ見ても夜闇の中でも輝き、荘厳で美しい。 上から下まで純白な城。 星にも負けない輝きを放つ。 城はいつだって魅了してくる。 そして、頭から足の先まで埃まみれで白くこ汚いワタシを馬鹿にしてくる。 明日、ワタシが王子を殺すというのに。 城は何も知らないで平和に光る。 今に見てろと鼻で笑う。 ヒュルンと冷えた風が窓から入る。 冷たさから逃げるように、窓を閉めて布団にくるまった。 今日とは違う明日を夢見て。 ワタシは明日、王子を殺す。
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