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「それで? どうなったの?」
「お前の知る通りさ」
私のおばあちゃんは、昔聖女だった。王宮に行って、たくさんの人を救ったらしい。
王宮。その言葉を聞くたびに、胸が躍る。だから、正直不思議でならなかった。
「どうしておばあちゃんは、村に帰ってきたの?」
「それはね……」
おばあちゃんは、そっと目を閉じた。
リンゴの花の咲き乱れる下に、ティムは待っていた。私を見て、笑みを浮かべる。まるで昨日会ったみたいに。
「お帰り」
「奥さんは?」
「これから迎えるよ」
ティムの下に駆け寄った。
「どうして?」
「だって――」
ティムが私の頬をつつむ。
「あの人の涙をふけるのは、私だけだった」
おばあちゃんの閉じた目から、涙が落ちた。手に持ったリンゴに伝う。
「いいえ、違うわね」
おばあちゃんはふと窓の外を見た。おじいちゃんが埋められた、庭に……
今日植えられた木は、いつ実をつけるのだろう。
「私が、あの人に会いたかったの」
私はおばあちゃんの膝にそっと顔を寄せた。そして目を閉じる。夢を見るように……
「できるとか、できないとかじゃない。もう一度、リンゴの木の下で……あの人に会いたかったのよ」
リンゴのあまい香りが、やさしく香っていた。
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