リンゴの木の下で

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 それから、私は王宮に戻り、いっそう精力的に働いた。  王妃になるソニアを助け、時に家々を訪問し、人を癒して回った。  そして、できる限り笑っているようにした。  今度は、ちゃんとここで生きるために。笑って、できうる限りの話をした。  ここに、ちゃんと根を張れるように。  三年がたち、五年がたち……十年がたった。  ソニアと陛下の間に子供が生まれ、私はその子のために祈った。  ソニアは、既に立派な王妃となり、また、聖女としても花開いていた。  それでも、二人は私の祝福を望んだ。   「マリーに祈ってほしいのよ」 「ずっと私達を支えてくれた、そなたの祝福こそ、われらの子に相応しい」    嬉しかった。光がおりる中、民衆がわあっと歓声を上げる。  歓声がうれしいんじゃない。私は、ここにいる。  ずっと頑張ってきたのだと、ようやく実感できた。  陛下とソニアに呼ばれたのは、その日の晩だった。   「ずっと、支えてくれてありがとうマリー」 「そなたを誇りに思う」 「もったいないお言葉にございます」    私は二人に頭を下げた。   「これは、あくまでそなたの意思を聞くための提案だが」 「マリー、あなたはこれから、どうしたい?」 「え?」   何度も咳ばらいをして、陛下が尋ねた。    「子が――次の世継ぎが生まれるまで、そなたを自由にすることは出来なかった。しかし、今ならそれが叶う」 「もちろん、私たちとしては、ずっとここにいてほしい。マリーが大すきだもの」 「だが、一度、そなたの言葉を聞きたくてな」 「マリーはずっと、恋しそうにしてたから」 「……!」    私は、二人に深く、頭を下げた。  そして、自分の気持ちを伝えた。  二人は、快く受け止めてくれた。  私は、部屋に戻り、荷物をまとめだした。  もう、きっと素敵な奥さんを迎えただろう。けれど、どうしても死ぬまでに、もう一度――。  私は見送られ、馬車に乗った。  向かったのは、あのリンゴの木の――  
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