湖の男とシャロットの女

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“あなたもこんなにカンタンにNFT(エヌエフティー)をはじめられる!”  友だちを待っている間にそれとなく試し読みした書店の電子広告には、かわいい文字でこう書かれていた。  NFTはよくSNSで流れてくる言葉だけど、実はどういうものかさえわかっていなかった。何でもいい、自分自身の存在を証明してくれるものならね。アイデンティティというものがいかに移ろいやすいか。仮想世界のアイコンの方がこんなにも、はっきりと見えているじゃないか。  未来に漠然とした不安を抱えている。進路を聞かれて、何にも答えられない自分がいる。特別得意な教科や打ち込めることもない。何者にもなれない自分。  高校生活二年半は、ずっとパソコン部に入っていたけれど、活動は月に一回あるかないか。その活動も結局雑談で終わることが多かった。つまりはいわゆる帰宅部ってやつだ。帰ってからはほとんど何もしない。  ぼくは打ち込めるものがない、空っぽな人間だ。少なくともクラスのやつらもパソコン部の皆もぼくをそう評価しているだろう。スクールカーストが可視化できれば、ぼくはその最底辺にいる無口で気味の悪い変人。ちゃんと学校に来ているのが不思議でならないって、友人は言ってたっけ。まあこいつもぼくと同じくらいに変人だからお互い様だけどね。
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