湖の男とシャロットの女

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 彼、明田(あきた)時生(ときお)は週に一回学校に登校している。時生は帰国子女で、高校二年の時にオーストラリアから日本に帰ってきたが、それからしばらくして不登校気味になった。本人は日本語が難しすぎるとかなんとか言っていた。だけど実際はクラスでいじめられたらしい。ぼくは他の学校に転校すればいいと思ったけれど、ある日彼は、オーストラリアでひどいいじめにあった話をしたことがあった。結局どこでも同じなのかもしれない。どこでもいじめるやつはいじめるやつで、いじめられやすいやつはいじめられやすいやつのまま。  世界から争いがなくならないように、集団からいじめがなくなることはないだろう。けれども、だからこそいろんな対策が必要なんだと思う。幸い彼は、そのことを気に病んでないし、みんなが思うよりとても明るい不登校生だ。 「藤岡(ふじおか)くんお待たせ! あ、電子書籍なに読んでいるの? なになに? メタバースだって? MMORPG?」 「まあ、メタバースというか、NFTの本なんだけどね。NFTの対象としてメタバースやゲーム世界のアイテムも入っているんだって。」 「ふーん、NFTってNon(ノン) Fungible(ファンジブル) Token(トークン)の略だよね。日本語で、なんだっけ?」 「非代替性トークンだよ。まあいわゆるオリジナルの証明されたデータってことね。」 「まあなんとなくはわかるよ。オーストラリアではホストファミリーの人たちもよくその話をしていたし。それで、藤岡くんもNFTを買うの?」 「いや、ただ話題になっているからどんなものかと思って、試し読みしていたんだけどね。無料分はここまでみたい。」  嘘だ。もう電子書籍を買ってしまった。帰ってから熟読する気満々だ。
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