湖の男とシャロットの女

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 ぼくは絵を描いている。絵と呼べるかどうかもわからない。いわゆる抽象的な絵だとみんなが言うだろうけれど、ぼくにとってはそれが一番のリアリティ。ぼくの等身大のアイデンティティなんだと思う。  ウォーターハウスのようにきれいな絵は描けないけれど、彼の表現したかった世界をぼくなりの感受性で表現したかった。  そこにぼく自身の分身を誕生させたい。それがぼくの、ほんの小さな欲望だ。NFTも、その欲望の裏付けのために、非代替性の証明のために登録したいと思ったに過ぎない。別に自分の絵が売れるとも思っているわけではないんだ。ただぼくにしかできないことの価値が少しでもあったなら、ぼくはこれからその価値を高めることを目標に生きてゆけるから。 「時生くん。実はね。」 「どうした? 夏樹くんいきなり。」
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