デートの練習

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 彩里花(ありか)から連絡が来たのは、久しぶりのことだった。  家が隣で、ずっと続いていた腐れ縁も、進学した大学が別だったというだけでめっきり距離が開いたものだと思う。 「久しぶり、どうしたいきなり電話なんて」 「今さ、だいたい連絡はLINEだけど、悠葉(ゆうは)に文字でなんか送るのって違和感があって」 「わかる」  俺も彩里花に何度かメッセージを送ろうか迷ったことがあった。  だけど『久しぶり』とか『大学どう?』とか、そんな何の変哲もない文面を彩里花に送るのは、言葉にできない距離を感じてしまって躊躇した。  だって、今まで中学や高校の連中から大学で新しくできた友人たちとの連絡はもっぱらLINEだったけれど、彩里花とはどうせ会って話すからとほとんど使ったことがない。  全然顔を合わせなくなって、彩里花がどうしているか気になったし、ちょっと会って話したいと思っても、気軽に連絡ができないんじゃ元も子もなかった。  相変わらず、隣に住んでいるはずなのに。  それで、電話の理由はわかったけれど。 「何かあった? いや、別に何にもないならいいんだけどさ、俺も特段変わりないし」 「悠葉は相変わらずバカか。想像通りだね」 「バカとは言ってないが?」  昔と――なんて連絡を取っていなかったのは精々数ヶ月なんだけれど――なにも変わらない軽口のたたき合い。  俺は何を躊躇していたんだってバカらしくなるし、同時にすごく安心した。 「急だけど、明日遊びに行かない?」 「ああ。いいぜ、行こう」  二つ返事で了承したが、大学の友人とネトゲする約束があった。まあ、一日くらいずらしても問題ないだろう。  俺はベッドに寝転がり、天井を眺める。  彩里花も隣の家で、それこそ昔は何度も遊びに行った彼女の部屋で、同じようにくつろいでいるんだろうか。 「久しぶりだし、定番でゲーセンか? ああそうだ、ラーメン行こうぜ、ラーメン。駅前に新しくできた店気になってて。すげえ並んでる店あるだろ? ニンニクがつ盛り系らしくてさ」 「んー、たまには映画とかどうかな」 「映画ぁ? いいけど、今面白そうなのやってたか?」 「評判いいやつあるって、恋愛ものだけど」 「へぇ。そんなん観て、彩里花寝ないか」  映画館に行った覚えなんてないが、二人して家のソファーに並んで観たことなら何度かある。ド派手なアクション映画か、コメディ映画なら、ギリギリ最後まで飽きずに観られるかもってところだ。それ以外は終わる前に眠るか、あきらめて外に飛び出していた。 「あとさ、晩ご飯はパスタ食べたいな。ちょっとおしゃれな店があってね」 「パスタぁあ? いやあれか、大学デビューか。彩里花、いいけどさ」  らしからぬ要求を疑問に思ったが、俺たちもそういう年頃なのかも知れない。  別に何をするにしたって、久しぶりにあいつに会えるなら構わないか。と俺は結局、深いことは気にせず了承した。    ●
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