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部屋に走って逃げ込んだ後、隼人にとてつもない後悔が襲ってくる。
"どうしよう、ボクなんて酷いこと言ったんだ!
お兄ちゃんなのに、あんな…"
『お前は俺の弟じゃない!』
"ボク…優斗にそんなこと思ってたの……?"
ずっとお兄ちゃんお兄ちゃんと慕ってくれる優斗のことを隼人は当たり前だが大好きだ。
努力を認めてくれたのも、結果を出すといつも凄いねと言ってくれたのも全部弟だけだったという理由もあった。
だからこそ、唯一の弟へあんな言葉を投げかけた自分の本当の気持ちが、隼人は自分のことの筈なのに分からずにいた。
どうしたらいいか考えていると夜はあっという間に過ぎた。
いつもならこの時間はもうリビングに行って、朝ごはんを食べている。
だが隼人はリビングに向かうか、このまま学校を休んでしまうか、と心の中でずっと葛藤していた。
"怖い…だけど、謝らないと、ほんとは弟じゃないなんて思ってないって、言わないと"
葛藤はあったが一晩かけて出した自分の想いが背中を押し、二階にある自分の部屋から出た。
少し扉の開いたリビングからは話し声が漏れている。
隼人は、勇気を出して扉を押した。
『あの…優斗っ』
下を向いているためどういう顔をしているのか分からない、もしかしたらこっちを向いてすらいないかもしれない。
だが、話し声は止まっていた。
『昨日、ボク、酷いこと言った…ごめんなさい!
ホントは弟だと思ってないなんて、嘘ついて……ボク、優斗のこと大好きだから、
だから…嫌いにならないで……お願い……』
「お兄ちゃん」
優斗の声が近くから聞こえた。
心臓がバクバクといっていた。
「ぼくも、ごめんなさい…
お兄ちゃんの気持ち全然分かってなくて…」
『そんなっ!ボクが悪いんだ、ボクが…』
「ううん、ごめんね、ごめんなさい
嫌いになんてならないよ、お兄ちゃんは、ぼくのこと嫌いになってない?
ぼく馬鹿だから…あ、あきれてない?」
『呆れるわけなんてない!
ボクもっ、優斗のこと嫌いになんてなるわけないよっ…』
「よかっ、良かった!
部屋に行こうと思ったけど…ぼくお兄ちゃんのこともっと傷つけちゃうかもって!」
『っ!』
隼人と優斗は見つめあって、だきしめあった。
お互いに遠慮して言えなかった気持ちを吐き出して仲直りをすることができ、初めての大喧嘩は丸く収まった。
ただ、2人が抱きしめあっているところを
母は冷たい目で見下ろしていた。
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