警官の娘

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重い足を引きずりながら廊下を歩いた。 曲がり角。羽田麻衣巡査と出くわした。 まだ学校を出て間もない新人だ。いわゆる美人。私服であれば、警察手帳を提示してもなかなか警察官と信じてもらえないだろう。 羽田麻衣の手から、人形が滑り落ちた。 「あ……」 羽田麻衣は床に落とした人形をあわてて拾い上げにかかっている。小学生を対象にした交通安全教室で使う人形だ。クルマに撥ね飛ばされるためだけに生まれた因果な人形。噂によれば、夜中になると保管室で「泣く」のだという。古株たちは薄気味悪がって、誰も人形に触れたがらない。自ずとそれを扱うのは新人の役目となる。 「交通課の手伝いですか」 「ええ」 羽田麻衣は頷いてから、人形に付着した埃を軽くはたいた。 羽田麻衣は生活安全課で少年事件を担当している。俺たちが勤務するA警察署は部所を越えた人員の貸し借りが頻繁に行われる。新人は必然的に他部所の手伝いをする機会が多くなる。 「人形、怖くないですか」 「いいえちっとも。むしろ可愛いです。では失礼します」 羽田麻衣は一礼して立ち去った。 署長室には、お馴染みの腰巾着たちはいなかった。いや、ひとりいた。生活安全課長の殿村警部。長椅子に深々と腰かけた署長の青井の脇に立ち、沈痛な面持ちで虚空を睨んでいる。 俺の顔を見るなり、署長は組んでいた足の左右を入れかえた。 「極秘でやってもらいたい作業がある」 署長は銀縁眼鏡の奥から俺を真っ直ぐ見据えている。 俺には思い出したくない過去がある。犯人の男を射殺したのだ。銃武装した凶悪犯とはいえ、問答無用に射殺するなどあってはならないことだった。 署長の計らいにより俺は首が繋がった。俺には署長命令に対する拒否権はない。
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