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形通りの挨拶言葉を早めに切り上げ、いきなり核心を突く。
「あなたは、羽田麻衣巡査から、何らかのハラスメント行為に関する相談をされてますよね。例えば上司のセクハラ」
カマをかけてみた。
佐藤和香は躊躇う素振りを見せた。しかし「これから見聞きすることはすべて他言しないと約束する」という俺の言葉が引き金となり、佐藤和香は語り始めた。
「麻衣さん、実は課長の殿村警部から誘われていて……」
「誘われていて、というのは、いわゆる一対一の男女関係の誘いということですか」
「そうです。麻衣さん、とても嫌がってました。しかも誘いを断ったからだと思いますけど、交通課へ応援に駆り出されることが多くなって、最近の麻衣さん困り果ててるんです」
「応援はしょっちゅうなんですか」
「自分の所属部所がどこなのかわからなくなるぐらいしょっちゅうなんです。麻衣さん、生活安全課で少年事件担当になったことを本当に悔やんでます。警察を辞めたいとまで言ってるんです」
「なるほどね――」
殿村を擁護するつもりはないのだが、先輩警察官として佐藤和香にはひとつ言い聞かせておかねばならぬ。
「これはあくまでも私見ですが、羽田巡査が応援という形で他部所に回されるのは、殿村警部の誘いを断り続けたこととは無関係ですよ。新人が応援という形で他部所に回されるのはうちの警察署に限らず一般企業でもよくあることです」
俺は席を立った。
「ご協力に感謝します」
次いで俺は、電車に一時間半ほど揺られながら、かつての殿村の勤務地だったB警察署を尋ねた。俺の勤務地であるA警察署からずいぶん離れた土地を管轄とするせいか、あまり見知った顔はなかった。むしろそれは好都合であった。
俺は、特命を受けた捜査員であることをそれとなく匂わせながら、片っ端から殿村のことを調べて回った。
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