警官の娘

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カップ麺とは便利なものだ。安くて美味い。手間隙かけて調理をする必要もない。蓋を開けてお湯を注ぐだけ。そしてひたすら待つ。一分経過。二分経過。あと三十秒で三分だ。 「坊門、署長がお呼びだ」 交通課長が刑事部屋を覗き込んでいる。階級は絶対だ。巡査部長の俺が課長職の警部の呼び掛けに無視を決め込むのはあり得ない。 「はい」 返事を返す。カップ麺が無駄になった。 「坊門も年貢の納め時か」 向かいの席の大柳が、冷めた海苔弁当をひろげた。 「うむ」 低く唸り、席を立った。 深尾が割り箸を咥えながら、何処からともなく現れた。 「勿体ないから代わりに戴きます」 ちゃっかり者がカップ麺をかっ拐う。怒鳴りつける気にもなれない。 「また何かやったんですか先輩」 「何もやってねえ」 「じゃあ、なぜ呼ばれてるんです」 「おまえに逮捕状が出たのかもな」 「俺に? 容疑は?」 「婦人警官の前で下半身を露出」 「するわけないでしょ!」 深尾の呆れ顔と大柳の笑い声が背後に遠くなる。 署長は如何なる用件で俺を呼びつけたのか。俺は悪党どもを檻に入れるためなら手段を選ばない。心当たりがありすぎる。不安に足取りは重くなる。
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